(2020年11月24日東京新聞に掲載)
東京電力福島第一原発事故から来春で10年を迎える。同じ東電の柏崎刈羽原発がある新潟県は、避難などの防災対策を重点課題として独自の検証を進めている。専門家による委員会は国が相手でも遠慮なく「駄目出し」し、「国の備えは福島原発事故以前よりも劣る」と非難する声まで上がる。他の立地道県も、踏み込んだ姿勢で課題の洗い出しをするべきではないか。(榊原崇仁)
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16日に開かれた新潟県の避難検証委員会。かねて議論してきた安定ヨウ素剤の論点整理案で委員長の関谷直也・東京大准教授(災害社会学)は、「原発の5キロ圏外の住民は避難途中の配布を」と推奨する国の方針を「避難経路上では難しい」と断じた。
国と一線を画す提言ながら、県の担当者は「豪雪地域だから、ただでさえ避難が大変。途中で配布できるか心配してきた。事前配布が行えるよう調整したい」と受け止める。
県の検証は泉田裕彦知事時代の2012年に始まった。福島原発事故の原因を分析する委員会だけだったが、次の米山隆一知事が17年、避難と健康影響を検証する各委員会を設置。現在の花角英世知事は検証が終わらない限り、再稼働は議論しないと語っている。
高齢者、子どもの避難…難問が鮮明に
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鮮明になったのは、解決が難しい問題の数々。福祉施設にいる高齢者の避難はその一つだ。訓練を視察した複数の委員が「車いすやストレッチャーで避難用の車に移るのに1人5分程度かかった」「人手や資機材が足りるのか」と指摘。委員の清水晶紀・福島大准教授(環境法)は「100人弱の施設なら避難に数時間かかりかねない」と話す。
学校にいる子どもと教職員の避難も大きな課題として話し合ってきた。委員の1人で、危機管理のコンサルティング会社「総合防災ソリューション」(東京都千代田区)の沢野一雄さんは「子どもをいつ保護者に引き渡すか、教職員はいつまで子どもと一緒に行動するのか。教職員にも家族がいて、正しい答えが見つからない」と語る。
ヨウ素剤に関しては、原子力防災を所管する内閣府と、服用の必要性を判断する原子力規制委員会で見解が異なる状況が浮き彫りになっている。
内閣府は9月の避難検証委で「国際原子力機関(IAEA)が示す基準値『7日間で50ミリシーベルト』に照らす」と説明。一方、規制委の更田豊志委員長は12年11月、「原子力災害事前対策等に関する検討チーム」の会合でIAEAの基準値採用に難色を示し、「大いに議論の余地がある」と述べている。考え方が違ったままでは、事故時に混乱する可能性が高い。
SPEEDIの活用法でも国と反対の考え
避難検証委で、委員が国の方針と反対の考えを示すケースは他にもある。矛先を向けたのは、放射性物質の放出量や風向きなどを見立て、汚染拡散の状況を予測する「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」の活用法だ。
福島事故前は、SPEEDIの結果を基に避難などを指示するようになっていた。ところが規制委は2014年10月、「さまざまな仮定を置いた計算にすぎない」「予測結果は正確性を欠く」として、「SPEEDIは活用しない」と決めた。代わりに被災地の空間線量を測り、基準を超えた場合に避難を指示することにした。
これに対し委員の山沢弘実・名古屋大教授(大気拡散)は16日の避難検証委で、SPEEDIを活用しない国の防災体制は「福島原発事故以前より劣る」と記した文書を提示した。山沢さんは取材に「線量が高くなったのを確認してから防護策を取るのでは遅い。既に汚染が来たということだから。拡散予測を使うべきだ」と主張した。
新潟県は山沢さんの指摘前から、拡散予測を使う方針を決めている。国を頼れない中、東電から拡散予測を得る協定を10月に結んだ。県の担当者は「入手方法はメールかファクスか、東電社員による持参になると思う」と話す。
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