東京電力福島第一原子力発電所事故後、伊達市住民の個人線量データを住民の同意を得ず、被曝の過小評価につながる論文を執筆し、論文撤回に至っている問題で24日、議会調の特別委員会が中間報告を行った。研究者らが伊達市に責任転嫁していることについて、「罪を糊塗する行為」 だと厳しく糾弾。また田中俊一氏との関係も指摘するなど、踏み込んだ報告書となっている。
問題となっているのは、福島県立医科大学の宮崎真講師と東京大学の早野龍五名誉教授が、2016年と2017年にかけて、英国の科学雑誌に発表した2つの論文。伊達市の調査委員会が今年2月、個人情報保護条例違反の疑いを指摘した報告書を公表したが、市議会がこれを受けて特別委員会を設置して、市の調査結果を検証していた。
データ違法入手を隠蔽」と指摘
特別委員会の菊地邦夫委員長はまず、研究者らがインフォームドコンセントを全く実施していなかったことを問題視。「説明どころか同意、不同意など無視して執筆しようとしていた可能性が高い」と強い言葉で非難した上で、「責任を市のデータ提供に問題があるがごとく責任転嫁し免れようとすることは、研究者として罪を糊塗する行為である」 と研究者の責任を指摘した。
さらに市長名で発出された2015年8月1日づけの「論文依頼書」が、実際には10月下旬に作成されていたことについて、「市民データを違法に入手したことを隠蔽するための工作」だったと指摘。すでに解析ずみであったにもかかわらず、宮崎氏が形式的に倫理審査会に申請をし、博士号まで取得していたと述べ、しかも、宮崎氏の論文撤回コメントまでもが不正であると厳しく批判した。
市の調査漏れを指摘〜2014年のフライング提供
このほか、報告書では、市の調査委員会の調査漏れも指摘した。市の調査報告書では、2015年2月と同年8月のデータ提供のみが報告されているが、2014年12月に、宮崎氏が同市の半澤隆弘直轄理事(当時)に対し、手続きを無視して、裁量で早野氏へデータを提供するよう依頼していたメールの存在を紹介。「個人情報保護法を無視し、違法提供、幇助、違法入手した」と指摘した。
伊達市の「伊達市被ばくデータ提供に関する調査委員会」報告書
https://www.city.fukushima-date.lg.jp/soshiki/3/39948.html
田中俊一氏への解析データ提供にも言及
さらに報告書では、事故後、伊達市の市政アドバイザーに就任し、その後、原子力規制委員長に就任した田中俊一氏へ解析データがわたっていたことにも言及。避難指示の指定や解除を担う内閣府の原子力被災者生活支援チームの会議資料の中に、同部署の担当者が2013年6月、宮崎氏やな早野氏らと線量計測について打ち合わせしていた事実が記載されいると指摘。2015年10月20日に、早野氏から田中氏に対して、解析データが提供されていたとした上で、伊達市のデータが違法な手段で提供され、国の政策を左右していることを示唆した。
報告書は、田中氏は昨年4月4日の読売新聞紙上で、「論文が取り下げられるとしても、適切な手続きを経てデータの解析はやり直されるべきだ。その成果は、他の市町村の被曝線量の推計や低減策に役立つだろう」と述べていることにも触れ、食品や空間線量の基準を緩和する立場に立っている田中氏が、同論文に影響を与えた可能性も指摘した。
宮崎氏や早野氏に対するデータ提供をめぐっては、今なお、未解明な点が残っており、市の職員が持ち出したCD-Rも今なお3枚が行方不明のままだ。その中には住所や年齢、個人番号など70項目の個人情報が含まれいているなどとして、報告書では、市だけでなく、市議会にも適切な対応をするよう求めた。調査特別委は、来年3月頃までに最終報告をまとめたいとしている。