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ゼレンスキー大統領は、「これまでチェルノブイリはウクライナのイメージの負の側面だった。我が国の問題を、優位へと転換する時が来た。ここは自然が再生している地球上でも稀有な土地であり、世界の学者、環境専門家、歴史家、旅行者たちに、それを見せてあげる必要がある。チェルノブイリ・ゾーンを新たなウクライナの成長拠点の一つにしたい。これまでゾーンへの入域が利権と化し、腐敗の温床となっていたが、自由化することでその余地もなくなる。ゾーンからの金属スクラップの違法な持ち出し、天然資源の勝手な利用なども防止できる」と、新機軸の狙いを説明しています。
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実はウクライナは今日でも原発ヘビーユーザー
ところで、日本人の感覚からすると、ウクライナの新任大統領が初めてチェルノブイリを訪れたわけですから、この機会に、今後の原子力政策について方針や見解を述べてもよさそうなものです。しかし、筆者が調べた限りでは、ゼレンスキー大統領はそういったことには触れず、ひたすらチェルノブイリ・ゾーン活用についてだけコメントしたようです。
それもそのはずであり、実はウクライナは今日も原子力発電に深く依存しているのです。さすがにチェルノブイリ原発での発電は2000年に停止されましたが、それ以外の4箇所の原発で15の原子炉が稼働しています。ウクライナの政財界のエリートで、「脱原発」を唱えるような向きは稀であり、それを求める社会運動なども目立ちません。近年の選挙で争点になったこともないと思います。ゼレンスキー新大統領にしても、原発の維持を当然のものと受け止めているでしょう。
ちなみに、1986年の大惨事で汚染を被ったのはウクライナだけでなく、ロシアとベラルーシも深刻な汚染にさらされました。実は、最大の被害国はベラルーシであり、汚染物質の70%以上がベラルーシに降り注いだと言われています。皮肉なことに、この3国とも、現在は原発推進国と位置付けられます。
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