原発や憲法考える催しへの後援 「中立性」配慮 揺れる自治体 札幌市、本年度6件拒否「政治的」分かれる判断 via 北海道新聞

市民団体が主催する講演会などの催しに、「札幌市後援」といった自治体の“お墨付き”が与えられていることがある。どんな催しなら後援するのか、しないのか。札幌市の判断基準に対し、市民団体が「基準を明確にした上で市民の自由な議論を保障してほしい」と見直しを求めた。「言論の自由」や「政治的中立性」など多くの課題がある「講演の後援」について考える。(報道センター 関口裕士、玉邑哲也)

札幌市が20日まとめた集計によると、市と市教委には本年度、1月末までに4047件の後援依頼があり、このうち6件を断った。過去5年間を見ると、毎年5~10件断っているが、全体の0・1%強と件数自体は多くない。いずれもいわゆる名義後援で、金銭的な補助が出るわけでもない。

ただ、後援を拒否した講演などの内容を見ると、原発や憲法、沖縄の基地問題など政治的な立ち位置によって意見が分かれるテーマが目立つ。「行政の中立性」にこだわるあまり、市の担当者が後援に二の足を踏む現状が浮かび上がる。

2011年の東京電力福島第1原発事故後の原発や、15年の安全保障関連法成立前後の憲法、安保を巡る講演会などは全国の自治体で後援拒否が相次いだ。

本年度、札幌市が後援を断った6件中1件がNPO法人さっぽろ自由学校「遊」の講座だった。市は全体で1件と数えるが、実際は「遊」が10月以降に開講した25の連続講座のうち7講座30回分が不承認となった。憲法や沖縄、教育改革などを考える講座だった。

ここ数年は同様の講座も「全体の枠組みとして」承認されていたが、「市民からクレームが来たため」(市秘書課)細かくチェックしたという。その結果、同じ講座でもタイトルや講師によって回ごとに承認と不承認が割れたケースもある。

札幌市は04年に作成したガイドラインで「政治的主張」などを目的とする催しは後援しないと定めた。だが何をもって政治的とするか、どこで線引きするかは難しく、市の担当者の時々の判断に委ねられているのが実情だ。「中立」の判断も、その時々の政権や社会情勢によって揺れ動く。

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判断基準は自治体によっても違う。北電泊原発(後志管内泊村)に近い同管内岩内町で昨秋、戦没画学生を巡るドキュメンタリー映画の上映会について、町と町教委が「主催団体の反原発色が強い」として後援を断ったが、札幌市は同じ団体の札幌での上映会を後援した。

市が、国の意向に沿う対応をしているわけでもない。今月上旬に札幌市内で開かれた、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)に関する意見交換会は経済産業省が札幌のNPO法人に委託して開いたが、市は「札幌市が核のごみの道内誘致を推進していると誤解を招く恐れがある」(エコエネルギー推進課)と後援依頼を断った。13年には、当時の上田文雄市長も登壇した脱原発を目指す講演会を市として後援しなかったケースもある。

「このままでは担当者の恣意(しい)的な判断で市民が自由に学ぼうとする意欲がそがれかねない」。「遊」は1月末、政治的主張の範囲を限定した上で、「人権侵害や暴力、差別を助長する活動」以外の市民の自主的活動を支援すると明記した独自のガイドライン改定案を市に提出した。

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■道内の他5市 6年で20件

後援拒否は道内の他の自治体でも起きている。北海道新聞が札幌市以外の人口上位9市に問い合わせると、2011~16年度(昨年12月末まで)の6年近くで函館7件、帯広5件、旭川4件、苫小牧3件、釧路1件の計20件あった。

函館市は福島原発事故があった11年度と翌12年度、原発に反対する内容の催し計3件を不承認とした。その後も沖縄の米軍基地問題に関する映画の上映会や集団的自衛権を考える講演会などの後援を断った。

帯広市も反原発の映画上映会などの後援を認めなかった。市総務課は「後援することで偏っていると取られかねない」と説明する。

旭川市は14年度以降、憲法や歴史教科書問題がテーマの講演会など3件を後援しなかった。13年に市議会で「賛否が分かれる問題に後援を認めている」と疑問視する声があり、14年度、それまで個別に判断していた後援の承認について「政治的活動が含まれている行事」は認めないとの基準を設けた。

苫小牧市は16年3月の安全保障関連法に関する学習会の後援を認めなかった。「(同年7月の)『参院選の投票の判断材料にするため』と主催者から説明を受けた。政治的であり、承認しないと決めた」(政策推進課)。釧路市も16年度、安保法に反対する若者のデモを追った映画の上映会を不承認とした。

一方、北見、小樽、千歳、江別の4市は後援を拒否した催しはなかった。ただ、「申請してもらう前に、承認できないものは説明している」(千歳市)との声もあり、必ずしも市が後援に前向きだったということではなさそうだ。

■後援制度自体やめるべき 前札幌市長、弁護士・上田文雄さん

市長時代は「賛否の分かれる問題への後援は謙抑的(謙虚で抑制的)でないといけない」と言ってきました。その考えは変わりません。ただし今は、市による後援制度自体をやめるべきだと考えています。

言論の自由はとても大切です。でも後援するとなると市がお墨付きを与えることになる。例えば従軍慰安婦や南京大虐殺をでっち上げだと主張する講演会の後援依頼が来た場合、私の感覚ではOKとは言えない。

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