福島第一原発で働く「おっさんたち」は明るかった~覆面漫画家が描く「作業員」の素顔 via 弁護士ドットコムnews

●中で働いていると感覚が麻痺してくる

――竜田さんが実際に働いた原子炉建屋の中では、どんな作業をやっていたのでしょうか。

「配管の補修作業の助手です。建屋の中で水をぐるぐる回している配管だったんですが、そのメンテナンスをやるときに水を止められると便利だということで、配管の途中に弁を付けようという作業です」

――放射線は人間の知覚で感じることができないので、本当の危機感を感覚的に持てない部分もあると思います。原発内で作業しているうちに、感覚が麻痺してしまうということはありませんか?

「それはありますよ。たとえば、1Fの中でも休憩所の管理作業とかだと一日いっぱい浴びても(放射線量は)0.01ミリシーベルトとか、その程度な んです。ところが建屋内の作業に行くと、一日1ミリとか浴びることになる。0.01ミリと比べると100倍ですが、自分では全然感じないわけです。1ミリ 浴びた翌日が0.5ミリだったら『今日少なかったじゃん』となりますが、休憩所の作業からみたら、ものすごく高い。そういう意味では、中で働いているうち に感覚が麻痺するとはいえますね」

――『いちえふ』では、顔面を覆っている全面マスクのバンドをきつく締めすぎたとか、作業中に鼻がかゆくなったという描写も出てきます。鼻がかゆくて、全面マスクを思わず脱いでしまうことはないんですか。

「鼻がかゆくてマスクを脱いでしまうというのは、ないですね。ただ、昨年か一昨年にどこかの建屋で、マスクがくもったので、脱いでふいたか、ちょっ と指を突っ込んでふいたというのがありました。そのとき、ゴム手袋を変えないでふいたために、顔面に汚染が出て、現場で話題になりました。『こういう奴が いるから気をつけろ』と。放射線量が高いということが分かっていても、直接は自分の体で感じることができないので、ついついやっちゃう奴がいるというのは 分かります」

(略)

――『いちえふ』第2巻の2014年の描写では、1Fの敷地内に「女性」がいたということで驚くシーンが出てきます。

「それも大きいですね。以前はおっさんしかいなかったのが、女性の姿を見かけるようになった。1Fの敷地のギリギリ外のところに東京電力の事務棟と いうのができて、そこから連絡業務何かわかりませんが、敷地内の免震需要棟のほうにも東電の女性の方がきていた。線量が下がったのと同時に、汚染もだいた い少なくなってきたので、外の事務棟から敷地内の免震重要棟に行くのに、花粉症のときとかにつけるマスクと作業服で来れるようになりましたから。以前は全 面マスクじゃないと1Fの中は移動できなかったのが、今はもう普通のマスクで行けるようになりました」

――原発事故から4年になりますが、いまのメディアの伝え方について、どう思いますか?

「(原発事故の直後と比べると)メディアの発信する情報の量が減っていて、なおかつ、更新されていないですね。事故当初からしばらくの間に報道され た『危険だ、危険だ』というのと、『全然作業が進んでいない』というところから、情報がなくなってしまった。『ここまで作業が進んだ』という話や『もうこ ういうことは起こっていない』ということは報道されない。何か報道されるとしたら『事故があって作業員が死にました』とか『汚染水がちょっと漏れました』 ということだけで、ちょっともどかしいな、というのはありますね」

――今回発売された『いちえふ』第2巻では、読者に何を伝えたいですか?

「1巻のときからそうですけど、特に伝えたいとか、訴えたいということはないんです。個人的な体験を描いているだけなので、日記みたいなものだと思っていただければ・・・。馬鹿なおっさんたちが馬鹿なことをやっているのを楽しんでいただければ、それで十分です」

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