原発ルポ漫画「いちえふ」作者・竜田一人さんインタビュ via 福島民友

着実に進む部分はある
 竜田さんは震災後の変化について「外から見ると変わったとは思えないかもしれないが、3号機の上のがれきがなくなったり、4号機にカバーがついて、燃料棒の取り出しが終わったりと1Fの中では着実に進んでいる部分がある」と話す。
 作品で竜田さんは、より高線量の現場で作業しようと、「1F内での『転職活動』」にいそしむ。原発の現状を伝えるその姿は一部から「ジャーナリスト」とも評されるが、「そう呼ばれるのは抵抗がある。漫画家であり、一作業員。作業員として、なるべく奥の方で作業してみたい、というだけ」とつぶやく。
 原発事故後、さまざまな震災、原発、放射能関連本が出版された。そんな中、「いちえふ」が支持されているのはなぜか。「(反原発や原発推進など著者の主張が)極端に偏っているものが多い。読者も、そういうものにうんざりしていた人が多いのではないか」と竜田さんは分析する。「偏らないことを目指したわけではないが、結果的に『現場のことをただ描く』というものだったから、安心して手に取れるものだったのではないか」

 両極端の中で思考停止
 「福島は『危険だ』『安全だ』―その両極端の中で、思考停止したまま4年がたち、関心が薄れてしまってきている」と竜田さんは振り返る。「そういうつもりで描いたわけではないが、結果的にこの漫画が読まれることで、思考停止していたところから進むきっかけになればいいなとは思う」
 全国の読者に原発や福島の現状が伝わるように、一番気を使うのは「分かりやすさ」だという。作品では、原発構内の図説や解説、原発周辺の地図などがたびたび出てくる。竜田さんが構想を描いた「ネーム」を出すと、担当の編集者篠原健一郎さん(33)=講談社・モーニング編集部=から「知らない人には全然分からないですよ」と厳しいツッコミが入るという。篠原さんも「編集者も専門家になるとよくない。基本的に質問しかしないようにしている」と話す。
 廃炉作業への道のりは長い。県民の間では、復興への足取りが進まないという閉塞(へいそく)感や焦りも募る。だが、竜田さんは「ここまで来たら、焦ってもしょうがない。4年で国道6号と常磐道が全面開通する。すごいと思いませんか」と語り掛ける。
 「働ける限りは原発で働きたい」「避難区域が解除されたら、楢葉や富岡、大熊にも住んでみたい」とも話す竜田さん。「常磐道は、震災前はなかったところまで新しく造って開通させた。言い過ぎだが、震災の前より『進歩』しているところもある。何も変わらないといっているよりも、いい面も見た方が、人生楽しいのではないか」と前向きだ。
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