(終わりと始まり)地下の水銀、地上の放射能 「繁栄」に巨大なコスト 池澤夏樹 via 朝日新聞

(抜粋)

水俣湾不知火海の 一部で、かつてチッソはここに「七十トンないし百五十トン、またはそれ以上ともいわれ」る水銀を放出した(なんといいかげんな数字か)。約二十年後に水銀 を含むヘドロは湾の底から回収され、「十四年の期間と四百八十五億円をかけて」護岸の内部に埋められた。今そこは五十八ヘクタールの「エコパーク水俣」に なってスポーツ施設などが造られている。

水俣市水俣病資料館の展示はこの事業を誇らしげに伝える。「やりとげたのは仕事だったからだ。それは技術者の良心だ」などと、まるで「プロジェクトX」のよう。

技術者レベルではそうかもしれない。しかしこれが本当に最善の策だったのだろうか? 今も薄い土の被覆の下に百五十一万立方メートルの有機水銀を含有するヘドロがある。海との距離は百メートルと少し。

(略)

そもそも毒性のある産業廃棄物を埋めるだけで処理済みとするのは廃棄物処理法ならびに去年採択された「水銀に関する水俣条約」の精神に反するのではないか。かつて香川県の豊島(てしま)に不法投棄された九十一万トンの産業廃棄物は隣の直島に運ばれて専用施設で正しく処理されている。

水俣で、チッソと熊本県と国は安上がりな方法を選んだ。最大六〇〇ppmの有機水銀を含むヘドロを埋めるだけで済ませることにした。

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この九月一日、福島県原発事故で生じた放射能を帯びた汚染土の中間貯蔵施設の建設を受け入れると決めた。県内の汚染土を大熊町と双葉町に集めてしばらくの間そこに貯蔵する。「しばらくの間」とは「最長三十年」。

県内の他の自治体は早く運び出してほしいと思っているし、二つの町には汚染で住めない土地が広がっている。そこに二千二百万立方メートルの汚れた土が搬入される。十トンダンプ二千台で運び続けて三年かかるほどの量だという。受け入れる方だって辛(つら)いだろう。

水銀と違って放射能は化学的に始末できない。どうやっても消去は不可能、人体に有害な放射線をいつまでも出し続ける。

福島第一原子力発電所に隣接する港湾では、海底にたまった放射性の「浮泥」が外洋に流出するのを防ぐために上からセメントで覆う工事が始まるという。陸地と海底の違いはあるが、手法は水俣とよく似ている。

この工事を進める東電は「将来、海底の土を回収するかどうかは決まっていない」と言っているそうだ。

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