金曜の夜、官邸前で 小熊英二さんと歩く via 朝日新聞デジタル

「デモの文化がない」と言われたこの国で、人々が街頭に繰り出し始めた。毎週金曜夜、首相官邸周辺は「サイカドー、ハンタイ」と連呼する人の波で埋まる。 60年安保以来の出来事だ。人々は何に怒り、抗議しているのか。日本社会の新しい幕が開こうとしているのか。著書「1968」で学生運動を分析した小熊英 二・慶応大教授と官邸周辺を歩いた。

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――抗議に集まっている人々にとって「原発」「再稼働」は何を象徴する存在なのでしょうか。

「米国のウォール街占拠運動も、高学歴なのに非正規労働という人が多かった。自分をそんな境遇に追い込んだのは何かと考えたとき、怒りがウォール街とワ シントン、つまり金融エリートと政府にむかった。エジプトでも、高学歴でフェイスブックもできるのに職がない若者が多く、怒りの対象はムバラク体制でし た」

「日本では何か。首相ではない。六本木ヒルズ族でもない。そこに原発事故があって見えてきたのが、政界・官界・財界の複合体だった。我々を無視して決定 し、我々の安全を守る気もなく、内輪で既得権を得ている連中だ、と映っているでしょう。『再稼働反対』という声には『日本のあり方』全体への抗議が込めら れていると思います」

――官邸前の抗議の「声」を、野田首相は「大きな音だね」と言ったと報じられました。

「フランス革命のときのルイ16世の日記を思い出しました。革命派がバスチーユ牢獄を襲撃した日に、日記に『何事もなし』と書いていた。彼は狩りにほぼ 毎日行っていたので『今日は獲物がなかった』という意味なんです。社会の根底が大きく動いているのに、その認識すらなかった」

「政治家も大手新聞の政治部記者も、ある種のムラ社会で動いていると外の世界が目に入らない。ムラ社会に影響を与えない限り、大した問題ではないと思っ てしまう。またはすべてムラ社会のフィルターを通して見る。あれは小沢派が仕掛けたものだ、とかね。そういう政治や政治報道は70年代以降の特徴です」

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