中部電力の浜岡原発が止まった。十四日、5号機の運転を停止し、廃炉が決まっていた二基を含め、政府の要請を受け入れ五基すべてがストップしたが、放射性物質がそこにある限り、危険性は残ったままだ。中電は二、三年後の運転再開を目指しているが、さらに地震対策が求められる可能性もあり「再開は事実上不可能」とみる専門家は少なくない。
■冷却維持
「運転を止めたからといって、地震や津波が起きても大丈夫、とはならない」。三沢毅・京都大原子炉実験所教授(原子炉物理)は強調する。原子炉内で核分裂反応は止まるが、セシウムやヨウ素などの放射性物質は放射線を発し、熱を出し続けるからだ。
燃料は、粒状のウラン成型物を詰め込んだ長さ四メートルの棒状の管を数十本束ねて一体と数え、浜岡原発には九千体ある。うち使用済み燃料が六千六百体だ。
原発停止後も、燃料は一〇〇度以下の「冷温停止」に保ち続けなければならない。福島第一原発では、検査で停止していた4号機の原子炉建屋が大破したが、使用済み燃料が津波で冷却装置の電源を失ったために高温となって水素爆発を起こした可能性もある。
危険と隣り合わせのため、燃料は簡単に運び出せない。国内では高速増殖炉などでの再利用も難航し、地下深くに埋める最終処分も受け入れ自治体が決まっていない。三沢教授は「電源対策が十分か、国は厳しく見る必要がある」と指摘する。
■地震対策
政府が浜岡原発の全面停止を求めたのは、同原発の東海地震対策が十分ではないと判断したからだ。
中電は、高さ十五メートル程度の防波壁の建設や非常用ディーゼル発電機の設置など三百億円の津波対策を公表している。これらの工事終了が、中電の考える再開へのゴーサインだ。
原発に詳しい技術評論家の桜井淳氏は「東日本大震災で分かったのは、どこでどのくらいの地震が起きるか、今の科学では正確に分からないということ。国は、東海地震の規模や被害想定をやり直す方針で、浜岡はさらに対策の強化が求められるだろう。二、三年程度で再開するのは不可能」と明言する。
阪神大震災後、国は原発の耐震指針を改定した。電力各社は対策をまとめ、内閣府の原子力安全委員会と、経済産業省の原子力安全・保安院がダブルチェックすることになっている。浜岡3~5号機は審査がまだ終わっていない。
■甘い審査
吉岡斉・九州大教授(科学社会学)は、その審査体制の矛盾を指摘する。「原発の安全審査は、科学技術庁の所管時にはチェック機能も働いたが、二〇〇一年の省庁再編で安全・保安院が設置され、資源エネルギー庁と同じ経産省に一元化された。原発を推進する側と、チェックする側が同じ。本来は米国の原子力規制委員会のように独立させ、経産省との人事交流も禁ずるべきだ」と話す。
国内には浜岡を含めて、商業用原子炉は計五十四基ある。吉岡教授は「浜岡だけ止めればいい、となるのが一番怖い。耐震性をきちんと審査できる体制を整え、ほかの原発にも適用しなければならない」と述べる。
(東京新聞)
『浜岡原発運転停止 「2~3年で再開」困難』 via 東京新聞
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