東京電力福島第一原発事故から間もなく10年。松戸市在住のライター小笠原和彦さん(75)は、被ばくによるとみられる健康被害の実態を掘り起こした「東電被曝(ひばく)二〇二〇・黙示録」(風媒社)を出版した。 (牧田幸夫)
小笠原さんが取材に着手したのは一七年十一月。きっかけは松戸市議に「子どもが甲状腺がんと診断された」という連絡が寄せられたことだった。「3・11甲状腺がん子ども基金」の支援先には県内の世帯も複数含まれていた。
事故直後、東葛地域は局地的に放射線量の高いホットスポットが点在し、他地域に避難した人もいた。小笠原さんは「事故から六年、ついに私の住む街からも甲状腺がんの子どもが出てしまった」とし、「福島は今、どうなっているのだろうか」と、福島市など各地に足を運び被ばくの実態を調べた。
取材したのは知人の紹介をはじめ、動画などで情報を発信している被ばく者や議員、教師、医療関係者ら計二十人。避難指示区域となった福島県浪江町、大熊町、飯舘村出身者の声も丹念に拾った。同県内で小児甲状腺がんの患者が増えていることなど、証言とデータで健康被害の事実を積み上げ、三年がかりで一冊の本にまとめた。
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国はがんの原因となり得る被ばくの線量が少ないことを理由に事故の影響を否定しているが、「百万人に二人か三人といわれた小児甲状腺がんがなぜ増えたのか。原発事故以外の理由で科学的に説明できる人がいたら説明してほしい」と国の対応を批判。
郡山市で取材した高校教師の言葉を引用し、「国にはがんを見つけてしまった責任がある。原発事故であろうが、なかろうが。国は将来を担う子どもたちを守る義務がある」と話す。