「テレビに出ずに全国を回って人と話してきたのでそれを本にしました」。ウーマンラッシュアワー村本大輔が一冊の本を12月16日に刊行した。彼がさまざまな地で見て、感じた“痛み”をつづった『おれは無関心なあなたを傷つけたい』というタイトルの本だ。ここ数年、村本大輔はプライベートでも各地に足を運び、当事者と直接話し続けてきた。彼は現場で何を見て、どう感じたのか? 今回は、本書に掲載されている「ネットは白か黒だが、現場は限りなくグレーを見せてくれる」という項目の一部を期間限定で公開する。
原発では、週に1つ1億円のタンクが生まれ続けている
最近、福島の原発に行った。たまたま以前、福島の屋台で飲んでいるときにいたおじさんが経産省の偉いさんで、原発から出た処理水を福島の海に流すかどうかを決められるくらい偉い人だった。彼が一度、原発を見に来てほしいと言ってきた。
10年前の原発事故のとき、日本ではあれだけ「原発怖い」「やばい」となっていたのに、たった10年でその緊張感も薄れ、そのタイミングを見計らって、どさくさに紛れて再稼働していっている。
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原発の怖さはニュースでもやらなくなり、当時、反原発で活動していた芸能人たちも少数以外は静まり返った。だから僕は、自分の目で見に行くことにした。コロナで金もないのに、完全プライベートなので自腹で東京から新幹線に乗った。福島駅からは車で2時間ほどだった。
原発の中に入るときには、いま自分の中にどれくらいの放射能があるかを、1分ほど椅子に座らされて測られる。そのあと、入り口で靴下を3枚ほど履く。そしてベストみたいなものを着せられて、手袋をまた2枚ほど着けさせられる。そして帽子をかぶり、中に入る。
敷地内は車で回る。原発の敷地内はディズニーランド三個半分の広さらしく、その中をこの車で移動する。車にはナンバープレートがなかった。理由を聞くと事故のときに放射能を浴びて、外には持ち出せないからだという。
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現場に行くと“そう”が抜けて自分の感情になる
これを誰かに聞いたり、ニュースで見たりすると、おそらく「そうなんだー」「靴下を履き替えるとかめんどくさそう」とか思うだろう。「放射能を測るとか怖そう」とか。
それが、実際に行くと「めんどくさい」になる。「怖い」になる。“そう”が抜けて自分の感情になる。ネットではその情報しか教えてくれない。自分で行くと、途中の福島の大自然の中を車で走り、なんて素晴らしい場所なんだろう、とも思う。
屋台で、経産省の彼とも話した。彼は「地元のいろんな声を聞き続けて、自分の立ち位置がわからなくなる」と言っていた。彼の話を、屋台の人から聞いたら、「本来は東京に戻って出世している人なんだけど、『福島の原発が廃炉になるまで見届けたい。福島で死ぬ』と言って、事故のあとも地元に残り続けている人だ」と言っていた。
こうやって屋台で飲み、いろんな人を原発に連れて行き感じさせてくれる彼は、おれには老けたおっさん版ティンカーベルに見えた。「次は処理水を流すのに反対している漁師さんと話したいから一緒に行こう」と言ったら、そのティンカーベルは顔を白くさせながら「ど、どこへだって行きますよ」と少しびびっていた。
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世界は、日本は、人間は、そのときによって良くも悪くも見える。世界の貧困や紛争、そんなことばかりを見ていたら世界を描くときに、とても暗くて怒りに満ちた絵を描くだろう。一方で、優しい友達、新しい発明、素敵なものばかりが目につく人たちはとてもキラキラした絵を描けるだろう。
この本で僕は、文字を使って、僕から見えた世界を描いた。美しい海を見ずに朽ち果てた船を描くような男だ。あなたには、これまで見えていなかった景色を僕は描いているかもしれない。そしてそれは、誰かに恐怖や怒りを覚えさせるだろう。
もちろんそれは、僕にはそう見えた、その程度のものかもしれない。あなたとは違うかもしれない。だけど、一つだけ言えることがある。見え方は違えど、それは、確実にそこに「ある」ということだ。
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見て見ぬふりをする、すべての無関心なあなたたちへ。
村本大輔