原発再稼働の是非を問う県民投票はなぜ実現できないのか 茨城県議会で感じた疑問 via 毎日新聞

2011年3月の東京電力福島第1原発事故以降、原発再稼働の知事判断に地元住民の意思を反映させるため、県民投票の実施を求める動きが各地で起きている。しかし、過去に県民投票条例案を審議した静岡や新潟、宮城の県議会では全て否決され、茨城県でも否決された。会派構成から見れば数の論理で廃案となったことは理解できる。しかし、廃案にするには合理的な理由が必要だ。6月18日に行われた県議会の審議を聞くと、数々の疑問が湧いた。【吉田卓矢/統合デジタル取材センター、鳥井真平/水戸支局】

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震災後は運転を停止しているが、18年11月までに被災した原発として初めて新規制基準への適合や最大20年の運転延長など、原子力規制委員会による主な審査を終えた。原電は今年4月、原子炉の使用開始時期を22年12月と記した使用前検査の申請を規制委に行った。

ただ、実際に再稼働するには安全協定を結ぶ地元自治体の事前了解も必要だ。原電は茨城県と東海村単独、さらに東海村を含む周辺6市村と協定を結ぶ。いずれも法的拘束力のない紳士協定だが、地元の事前了解なしに再稼働した原発はない。茨城県の大井川和彦知事は、判断する際に住民の意思を重視すると言っているが、その確認方法については明言を避けている。

そのため、「知事の判断に県民の意思をしっかりと反映させる必要がある」と考えた県民有志が、「いばらき原発県民投票の会」を結成して今年1月から署名を集め、5月に県に対し、条例案の提出を直接請求した。

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条例の反対理由を聞くと、数々の疑問が
 県民投票を実施するための条例案は6月8日に大井川知事が意見書を付けて県議会に提案した。審議は18日の常任委員会で1日だけ行われ、即日採決された。最終日の23日にも本会議で改めて採決。賛成少数で否決され、廃案となった。その間、県議の意見表明は、常任委員会と本会議の採決前に計2回あった。いずれも各会派の議員らが賛成・反対の各立場から理由を述べている。廃案理由は反対意見を聞けば分かるはずだ。

県議会は現在、議長を除くと58議席あるが、原発再稼働の是非を県民に問う条例案に反対した会派は、最大会派のいばらき自民党(41人、1人は議長のため採決に参加せず)、県民フォーラム(国民民主党、5人)、公明党(4人)と、一部を除く無所属議員だった。

委員会で反対意見を述べる自民の白田信夫県議の言葉でまず引っかかったのが「(条例が)次の任期の議会の判断を縛ることになる」との発言だった。投票の実施日について、「知事が再稼働の是非を判断するまでの期間で知事が決める」と定めていた条例案に対する反論として出てきた。大井川知事が、安全性の検証▽実効性ある避難計画の策定▽県民への情報提供--の3条件を整えた上で「県民らの意見を聞く」と意見書に書いているから、「投票が行われるのは(原電の工事が終わる)22年12月以降になると推察される」、自分たちの任期中には実施されないから、実施方法だけを先に決めるのはおかしい、という理屈らしいが、よく分からない。そもそも議会で決めた条例は任期をまたぐものだろう。ちなみに、茨城県議会が前回県議選前に制定した議員提案の政策条例「薬物の濫用の防止に関する条例」(15年)、犬猫殺処分ゼロを目指す条例(16年)などはいずれも現在も有効だ。なぜ県民投票条例だけが任期をまたぐとダメなのか。

自民は更に本会議で、「国は地元同意の法的な位置づけを明確にしていない。民間企業の行く末を県が決定することへの矛盾や賠償など法律上の懸念も指摘されている」(飯塚秋男県議)とも述べたが、これも変だ。原電との間で結んだ安全協定に基づく知事の判断と県民投票を混同していないだろうか?

「えっ?」と思ったのは、自民の意見表明だけではない。委員会で「投票率にこだわるべきだ」と主張したのは県民フォーラムの二川英俊県議だ。公明の田村佳子県議も「投票率が低かった場合、結果の解釈を巡って不審を招く」と述べた。これは、投票結果の成立要件について、「有効投票数の過半数を占めた賛否が、有権者の4分の1以上だった場合」とした条例案に対する批判だったようだが、何度聞き直しても、なぜ条例案の要件ではダメなのかが分からない。

ブラックジョーク、不勉強か不誠実……
 尽きない疑問を、筑波大の佐藤嘉幸准教授(社会思想)にぶつけてみた。佐藤准教授は昨年7月に東海第2原発の再稼働や住民投票の意義について考えるシンポジウムも開催している専門家だ。

まず、任期をまたぐ条例の制定について、佐藤准教授は「当然、国会で審議される法律も、県議会などで審議される条例も制定されれば、議員が選挙で変わっても効力があるのは当たり前で、これは理由になりません。そもそも、県民投票の時期が議員の任期をまたぐだろう、という点も推測に基づく議論でしかありません」ときっぱり。

「賠償など法律上の懸念が指摘されている」との主張については、「論理の飛躍です。住民投票の結果は知事が判断する際の材料の一つに過ぎません。これを知事による判断を否定する理由にするなら分かるのですが」と述べた。

「投票率にこだわるべきだ」との主張についても、「廃案理由になりません。条例案に書かれた投票結果の成立要件は、直近の米軍の基地移転を巡る沖縄の県民投票で採用、執行され、正当性について疑義は示されていません。過去の事例を検証して理由を示すべきです」とあきれる。「知らなかったのなら勉強不足です。もし、知っていたのなら、不誠実です」とバッサリ。県民投票の結果が知事と議会の判断を縛るとの主張についても「そもそも、県議会や知事の判断に影響を与えるために直接請求するのが住民投票です。地方自治法で定められた住民投票という制度自体を否定するつもりでしょうか」と疑問を口にした。

更に、佐藤准教授は「県民フォーラムは、知事と議会の間での十分な議論の後に意見の相違があった場合などに県民に問うべきだとも言っていましたが、そもそも議論してこなかったから直接請求されたのです。自らの不作為を(反対)理由にするなんて、ブラックジョークですよ」とため息をついた。

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また、参考人についても佐藤准教授は「専門家がいなかった。本来なら住民投票や地方自治の専門家を呼ぶべきです。首長を呼ぶなら立地自治体だけでなく、周辺自治体も呼ぶべきでしょう」と指摘する。他県では、宮城や静岡で専門家が呼ばれたが、いずれも地方自治や住民投票、法律などが専門の学識経験者だった。今回の審議では、学識経験者は茨城大の教授1人だけで、それ以外は、資源エネルギー庁や原子力規制庁の職員、立地自治体・東海村の山田修村長だった。鹿野さんは「条例案の審議に国の役人を呼んだのは茨城県だけ。条例案に関連するような質疑もなく、何のために呼んだのか最後まで分からなかった」と話す。

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福島第1原発事故では現在も、故郷に戻れない人がいる。再稼働の是非について地元の声を表明できるのは地元の首長だけだ。大井川知事は、県民の声を聞いてほしいという8万6703筆に込められた思いの重さをかみしめてほしい。

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