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住民に立証責任要求
大阪高裁決定は、大津地裁決定を完全に否定した。国の原子力規制委員会が策定した新規制基準を全面的に評価し、「白紙委任」に近い内容となった。
決定文はA4判415ページ。大津地裁決定(59ページ)の約7倍に及んだ。原発の安全性の肯定に多くのページを割き、180度異なる見解を示した。二つの決定で大きく異なったのは、原発のリスクと新規制基準に対する考え方だ。
大津地裁は東京電力福島第1原発事故を踏まえ、「常に危険性を見落としているとの立場に立つべきだ」として、厳格な安全性の確保を求めた。そして、福島事故の原因究明が「今なお道半ば」と言及。新規制基準について「公共の安寧の基礎となると考えることをためらわざるを得ない」と不信感を示した。福島事故を受けた認定で、国民の原発事故再発への強い不安に寄り添った内容だった。関電側は「実質的なゼロリスクを求めるものだ」と批判した。
これに対し、高裁決定は原発に求める安全性の考え方を一変させた。
山下郁夫裁判長は科学技術の利用では「相対的な安全性が許容されている」とし、「原発に『絶対的安全性』を要求するのは相当ではない」と指摘。「放射性物質による被害発生の危険性が社会通念上、無視しうる程度まで管理されていれば安全性が認められ、運転が許される」との判断を示した。
さらに、原因が未解明との指摘もある福島事故については「発生及び、進展に関する基本的な事象は明らかにされている」と指摘。最新の科学・技術的知見に基づいて策定された新規制基準の合理性を強調した。原発の耐震性や避難計画の有効性など、あらゆる争点で安全性を主張する関電の言い分を追認。一方で、住民側の訴えは完全に退けた。
高裁決定は、住民側にも安全性の不備に関する立証責任を求めたのも特徴だ。住民側の弁護団は決定後の記者会見で「東日本大震災後の原発裁判で最悪の枠組みで結論を導き出した。『裁判したいなら、完璧な証拠を持ってこい』と言わんばかりで見過ごせない」と憤った。
(略)
原子力規制委員会の安全審査を巡っては、これまで16原発26基が申請し、6原発12基が審査で合格。そのうち、関電高浜原発3、4号機のほか、九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)▽四国電力伊方原発3号機(愛媛県)--の3原発5基が再稼働した。
ただ運転差し止めを求める仮処分申請や訴訟は全国規模で広がっており、30日には、伊方原発の運転差し止めを求める仮処分申請に対し、広島地裁が判断を出す予定で「訴訟リスク」は続く。【宇都宮裕一、柳楽未来】
「安全神話」という堕落から「原発に『絶対的安全性』を要求するのは相当ではない」という堕落を表明する判決に憤りを覚える。