(抜粋)
日本は、福島第一原発事故に何を学んだのでしょうか。すでに一度、大事故を経験している日本で、「原発の安全神話」は崩壊しただけでなく、人々から土地や家屋を奪い、原発周辺のいくつもの自治体を「無人地帯」にしてしまった取り戻すことの出来ない被害を背負うのが、被害者だけでいいはずがありません。世田谷区でも、福島第一原発周辺の自治体から多数の「一時避難者」を受けいれました。区民から賃貸住宅の提供を受けて、ピーク時は約400世帯の避難者の受けいれをしています。家を出る時には「一時」のつもりでも避難生活が長期に及んでいる皆さんをお招きして、話を聞く機会も持っていますが、ひとりひとりが払った途方もない犠牲については、受けとめるのが精一杯です。
当初から、避難者の方の支援にあたっていた世田谷区の女性たちが中心となって、福島県在住の子どもたちを春休みを使って一時受けいれをしたいという企画が持ち上がりました。最初は数人の呼びかけでしたが反響の輪が広がり、「ふくしまっ子リフレッシュin世田谷」という企画が生まれ、「福島の子どもたちとともに 世田谷の会」が誕生し、世田谷区と世田谷区教育委員会も共催することになりました。社会福祉協議会、世田谷ボランティア協会も共催しています。
1回目は2012年の春休みでした。親子60人を往復のバスで送迎し、区立の宿泊施設を利用して、内外のプログラムを組みます。それから、2015年の夏までに11回が実施され、参加者の総計は800人を超えています。運営に携わるのは約30人の区民で、毎回多くの学生ボランティアも参加し、総勢100名前後で迎えています。4~5日という短い期間ではあるけれど、「冒険遊び場 プレーパーク訪問」等のプログラムを楽しみ、また膝をまじえて「2011年3月」をふりかえる機会もあります。こうした事業を推進しているのは、区民のボランティアであり、継続しているのも熱意です。
また、バスチャーター等の運営経費は、寄付・募金によるものです。
→関係記事原発事故の影響を間近に受けて避難した人たちや、その影響を気にしながら周辺の市町村で暮らしている福島県の親子の声を聞いていると、「この被害を受けた人々を電力会社や国は最大限に支援するべきだ」と感じると共に、「二度と原発事故を繰り返してはならない」と強く思います。
大人が学ぶ姿を子どもには見せたいものです。福島第一原発事故を経験したことを逆手に取って、「世界一安全な原発」とセールスする姿はいかがでしょうか。太平洋戦争の渦中で、確たる展望もなく派兵する前線を膨張させていった旧軍部の姿と重なります。福島第一原発事故の責任さえ明らかにすることなく、また被害者の補償や生活再建等もすべて途上のままであることを忘れてはなりません。まして、原発輸出の結果、稼働後に重大事故を起こした場合に、日本政府に何が出来るのでしょうか。
(略)
近刊の『亡国記』(北野慶著・現代書館)は、近未来小説で「巨大地震による破滅的原発事故」により日本を脱出する親子の物語です。分厚い本ですが、フィクションだと知りつつもどきどきしながらページをめくり、一気に読んでしまいました。
歴史の振り子は揺れながらも進むものです。脱原発から原発回帰へと振り子は動きかけていますが、私たちが声をあげることで振り子は止まります。そして、止めることが出来れば、次は戻すことができるはずです。
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