何が何でも再稼働だから? 東海第2原発の「不備」を4カ月も黙っていた日本原電と原子力規制庁の不誠実 via 東京新聞

 首都圏唯一の原発、日本原子力発電東海第2原発で、防潮堤の施工不良が明らかになった。ただ原電の公表は不備の把握から4カ月後。原子力規制庁もかねて報告を受けていたのに、公表に動かなかった。立地自治体の茨城県東海村ではこの間、休止続きの東海第2の再稼働について議会が初めて賛意を示した。原発不信を招く話が伏せられるうちに再稼働の道筋が付く—。こんな話がまかり通っていいのか。(宮畑譲、山田祐一郎、長崎高大)

◆再稼働準備の工事中 「防潮堤」に施工不良

 「すぐに公表しないで、村議会議員や首長にも黙っていたことが問題。命と環境を守る意識が欠けている。信頼関係が崩れた」

 今月8日に開かれた東海村議会の全員協議会。原電の面々を前に、再稼働に反対する阿部功志村議(無所属)はそう糾弾した。

 大名おおな美恵子村議(共産)も「(防潮堤の不備は)重大な工事の失敗。少なくとも県や村、議会には報告してから対策するのが本来の姿だ」と切り出した上で、「全国の人が注目している。住民、地元議会、自治体にはいち早く説明していくスタンスが大事だ」と言葉を重ねた。

 東海第2原発は2018年、原子力規制委員会による新規制基準の審査に通過。同年に運転期限となる40年を迎えたが、最長20年の運転延長が認められた。

その後、防潮堤の建設や非常用電源の設置など事故対策工事を進め、24年9月の完了を経て再稼働に向かう算段だった。

 そんな最中の今年10月、防潮堤に施工不良があったと原電は発表した。

 不備が見つかったのは、防潮堤の取水口付近の鋼製防護壁を支える基礎部分。外周部の地中に埋められた2本の柱(幅15.5メートル、長さ50メートル)の一つに、コンクリートの充填じゅうてん不足による隙間や鉄筋の変形があった。

◆事実の発表は、内部告発を受けた記者会見とまさかの同日

 当然ながら施工不良は問題だが、村議たちは公表の時期にも疑問のまなざしを向けた。原電が施工不良を見つけたのは今年6月。10月までの約4カ月間、公表していなかった。

原電の広報担当者は東京新聞「こちら特報部」の取材に「初めから公表する方向で調整していたが、原因を推定するのに時間がかかった。大方の原因が分かり、発表できるようになったのが10月だった」と説明する。

 ただ、不可解な経緯もある。先の大名村議は9月6日に工事関係者から内部告発を受け、同月22日には原電に質問書を出した。ところがその後に回答がなく、10月16日に会見を開こうとしたところ、原電も同じ日に公表したという。

 原電の担当者は「共産党は関係がない」と語るが、大名村議は「もっと早く公表できたはずだ。公表するつもりはなかったが、会見が入ったので公表したのではないか」といぶかる。

◆山中伸介・規制委員長「重大性がある問題と認識していない」

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10月18日の定例会見で規制委の山中伸介委員長は「現時点で規制委が取り上げるほど重大性がある問題と認識していない」と述べ、「適切な工事がなされれば使用前検査できっちり確認していく」と繰り返した。

 改めて規制庁に聞くと、担当者は「法令に基づき報告を義務付けている事象がある。今回の施工不良は該当せず、われわれから公表するものではない。あくまで完成後に検査をして合否を判定する」と述べ、「立地自治体への説明は大事なことだが、事業者が行うべきこと。コメントする立場にはない」と話した。

◆日本原電と原子力規制庁の置かれた立場は

 首をかしげたくなる対応を取る原電と規制庁。両者に関していえば、東海第2原発の再稼働に前のめりな姿勢がうかがえる。

 原電は原発専業の電力会社だが、保有する敦賀原発1、2号機(福井県)、東海第2原発のうち、敦賀1号機は廃炉が決定。直下に活断層がある2号機も再稼働に向けた審査が滞る。震災以降、販売電力量はゼロで、再稼働を前提に原発の維持や管理費の名目で電力各社が支払う「基本料金」で経営をつなぐ。

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◆知らされない間に東海村議会が「再稼働求める請願」採択

 国策と化す再稼働を巡っては、防潮堤の施工不良が公表されずにいた間、東海第2が立地する東海村では重要な局面を迎えていた。

 村議会原子力問題調査特別委員会は9月、村商工会などが出していた再稼働を求める請願を賛成多数で「採択するべき」とした。再稼働を巡って議会が事実上の賛意を示すのは初めて。再稼働に反対する請願は「不採択」とした。

 ただ施工不良が公表されていれば、委員会での審議に影響を与えた可能性がある。10月の公表でよかったのか。原電は「原因を一定程度推定するのに時間がかかった。村の請願とは関係ない」と答える。

脱原発を訴える市民団体「たんぽぽ舎」の柳田真共同代表は「原電はこれ以上、工事を遅らせることはできず、情報を伏せたのでは。何が何でも来年9月に工事完了できるよう躍起なのだろう」と推し量る。

 一方、茨城大の蓮井誠一郎教授(国際政治学)は「不備をすぐに公表しなかったのは地域や社会をどこか信頼しておらず、オープンな議論を避けた結果ではないか」といぶかる。

◆炉心溶融事故が起きたら経済的な損失は660兆円

 厳しい視線は村議会にも向く。防潮堤が完成していない段階で再稼働絡みの請願の審議を進めたほか、不備が発覚した後も再審議に動かなかったからだ。

 「地域のリスクを軽視しており、チェック機能が果たされていない」

 再稼働に前のめりになるあまり、安全面がないがしろにされては困る。

 東海第2で事故が起きれば甚大な被害が生じかねない。環境経済研究所の上岡直見代表は「炉心溶融事故が起きた場合、経済的な損失は660兆円を超える」と試算する。

 福島第1原発2号機の放射性物質放出量の推定値と同量が東海第2から大気中に放出された場合、東京23区の東半分までの住民が避難や一時移転を余儀なくされ、生産・消費活動が停止すると想定した。

 福島の事故では、民間シンクタンクが事故処理費用が最大81兆円に及ぶと試算した。「条件設定にも左右され、直接比較はできない」と語る一方、「再稼働した場合、利益と比べて桁違いのリスクがある。原電はどこまで認識しているのか」とも指摘する。

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◆デスクメモ

 2020年9月の柏崎刈羽原発。東京電力はテロ対策の不備を把握し、規制庁に伝えたが、公表されなかった。表沙汰になったのは翌年1月の報道。その間、再稼働が絡む規制委の審査があり、ゴーサインが出た。「またか」と思う今回の件。双方に絡む規制庁。不信ばかりが募る。(榊)

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