シンプルな因果関係
なお120ページの訴状(公開版)が、311甲状腺がんこども支援ネットワークのホームページに掲載されている。
下に紹介する弁護団長の話にも出てくる問題の「福島県県民健康調査」批判に多くのページが割かれているのでぜひ一読いただければと思う。
また、裁判開始に合わせるように岩波書店発行の雑誌「科学」2022年4月号が【特集】原発事故と小児甲状腺がんを掲載している。その巻頭エッセイ
提訴にあたって因果関係の立証の困難さも指摘されているが、因果関係や環境保健が専門の者にとっては、科学的因果関係の立証がこれほどシンプルな事例は珍しい。
雑誌「科学」2022年4月号
その答えは「被ばく」-井戸謙一弁護団長(2022/1/27記者会見)
そもそも小児甲状腺がんというのは100万人に1人か2人という極めてまれな病気です。福島県の子どもの数は三十数万人ですから、福島県では2、3年に一人でるかでないか、です。
ところが、原発事故後の福島では、福島県県民健康調査で266名、それ以外で27名、あわせて293名の小児甲状腺患者がすでに発生しています。
原告たちはそのひとりになってしまい、思い描いていた人生を狂わされ、なぜ自分が十代でがんにならなければならなかったのか、考え続けてきました。
しかし、いくら考えてもその答えは「被ばく」しか考えられないのです。
あの2011年3月中旬以降、被ばくをきびしく注意してくれるおとなはいなかったし、被ばくなんて気にしないで今までどおりの生活をしていました。それぞれが相当量の被ばくをしたと考えられます。
しかし、今の福島では、自分のがんの原因が被ばくではないか?などとは言えません。
医者に質問すれば頭から否定されます。質問しないのに、きみのがんの原因は被ばくが原因ではないからね、と言う、そういう医者もいます。
周りの人たちにそういう疑問を口にすれば、福島の復興に水を差す、風評加害者としてバッシングされます。彼らは甲状腺がんに罹患したことさえ隠して生活してきたのです。
しかし、将来の不安は高まるばかりです。
六人とも甲状腺の半分を手術で摘出しましたが、そのうち四人は再発し、甲状腺全部を摘出しました。
甲状腺を全部摘出すると、残った甲状腺組織をやっつけるために放射性ヨウ素の入ったカプセルを内服するRAI治療という過酷な治療を受けなければなりません。
そのカプセルに入っている放射性ヨウ素はなんと、すくなくとも10億ベクレル。さらに甲状腺がありませんから、生涯、ホルモン剤を飲み続けなければなりません。
再発を繰り返し、四回も手術を受けた若者がいます。
再手術の可能性を医師から指摘されている若者もいます。
肺転移の可能性を指摘されている若者もいます。
全員が再発を恐れています。進学にも就職にも支障が出ています。将来の結婚、出産なども不安です。
このまま泣き寝入りするのではなく、加害者である東京電力に自分たちの甲状腺がんの原因が被ばくであることを認めさせ、きっちりと償いをさせたい、思い悩んだ末、彼らはそう決意し、提訴するという重い決断をしました。
しかし彼等が提訴の決断をしたのはそれだけが原因ではありません。
同じ境遇の300人近い若者達が同じように苦しんでいるだろう、だれかが声をあげればその人達の希望になる、そしてできればその人達ともいっしょに闘いたい。
さらに、原爆の被爆者の方々が、被爆者健康手帳をもらって生涯にわたって医療費や手当の支給を受けているように原発事故による被ばく者にも支援の枠組みをつくってほしい。
そこまでつなげたい、と彼らは願っています。
国や福島県が小児甲状腺がんと被ばくとの因果関係を認めていないなかで、裁判所にこれを認めさせるのはむずかしいのではないかと考えられる方がおられるかもしれません。
しかし、100万人に一人か二人のはずだった病気が数十倍も多発しているのです。そして、甲状腺がんの最大の危険因子が、被ばくであることは誰もが認めることです。教科書にいの一番に書いてあります。
そして原告らは確かに被ばくをしました。
最近、福島県県民健康調査では必要の無い手術をしているという過剰診断論が流布されていますが、原告らのがんは進行しており過剰診断では有り得ません。
したがって、原告らのがんの原因が被ばく以外にあるんだということを(被告が)証明しない限り、原告らの甲状腺がんの原因は被ばくであると認定されるべきであると我々は考えておりますし、その考えは裁判所にも十分ご理解していただけるものと考えています。
6名の若者は本日闘いの第一歩を踏み出しました
請求金額は全摘の若者4名が1億円に弁護士費用1000万円、片葉切除の若者2名は8000万円に弁護士費用800万円。
長い闘いになります。
本当はひとりひとりが皆さんの前で顔と名前を出して、その気持ちを訴えたいのですが、いまの福島、いまの日本に現状ではそれをすることはできません。
今後も匿名で訴えることとなりますが、その点はぜひご理解をお願いしたいと思います。
最後にメディアの皆さまには、福島の事故は終わった、福島事故による健康被害者はゼロだなどという政府にウソのプロパガンダに惑わされることなく、この現実を日本中、世界中の人々に幅広く伝えて頂きたくお願い申し上げる次第です。ありがとうございました。