原発の維持、推進を掲げる自民党にあって、菅義偉首相を支えるグループの中堅衆院議員が「脱原発」を訴える著書を出し、一石を投じている。秋本真利氏(45)=千葉9区、当選3回=が出版した「自民党発!『原発のない国へ』宣言」(東京新聞刊、272ページ。税込み1760円)。原発の限界と再生可能エネルギーの優位性を門外漢にも分かりやすく、かつ論理的に伝える一冊だ。原発推進派とのあつれきや、実力者からの圧力といった党内での実体験も赤裸々につづられている。なぜ、ここまで踏み込んで書いたのか、自民党にいながら脱原発を唱えるのか。本人を直撃した。(聞き手・湯之前八州)
(略)
――脱原発を持論としたのはいつごろか。
「大学院生時代に『住民投票』を研究した。住民投票の争点はいわゆる『迷惑施設』を巡る事例が多く、その流れで原子力政策の勉強を始めた。原発立地地域には政府からお金が支払われ、金で地域が培養されていく。こんな地域づくり、なんかおかしいなと。おまけに原発のごみは捨て場がない。これって、今後も続けるのはちょっと無理なんじゃないのって思った。(2011年の)福島第1原発事故が起こるより相当前のことです」
――政治家を志したきっかけは。
「現在、行政改革担当相の河野太郎さんが当時、私の通う大学院で授業のこまを持っていて、受講した。ある時、河野さんが『核燃料サイクルとプルサーマルの仕組みが分かるか』とわれわれ学生に質問を出し、私は完璧に説明してみせた。『おまえは何者なんだ』と驚かれ、それから師弟関係になった。衆院議員になったのは、河野さんの勧めもある」
――脱原発を訴えるのなら野党から立候補した方が良かったのでは。
「よく言われますね。でも、私はエネルギー以外は自民党の政策に共鳴している。憲法改正すべきだと思っているし、平和安全法制も賛成だし。親も政治家ではないけど自民党員だし。自民党が最も自分と親和性が高いと思っているのです」 「与党内にいて脱原発を訴えることに意義がある。政府、与党が一体化した議院内閣制では、政策決定に及ぼす影響力は野党より与党が格段に強い。自民党で声を上げるからこそ、現状を変えられるリアルな可能性がある」
――著書の中では、現役閣僚の人や、派閥の領りょう袖しゅうだった重鎮議員の実名を挙げて、さまざまな圧力や嫌がらせを受けたことを描いている。
「全部本当のことですから。私が初当選した2012年、自民党で脱原発を鮮明にしているのは河野さんぐらいだった。当時は福島第1原発事故が起きてまだ日が浅く、世論の原発に対する風当たりは強かったが、それでも党内の主流はやはり原発推進。『反対』と言うと『野党に行け』『出世しねえぞ』とやじられたり、会合で挙手しても指されなかったりした。地元でも『うちの議員、大丈夫か?』と白い目で見られたりして。すごくストレスフルだった」
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――菅義偉首相が「50年までのカーボンニュートラル」を掲げたことで、発電時に二酸化炭素(CO2)を出さない原発を推進しようという声が再び、自民党内で高まりつつある。
「再エネは自然由来だから、普及すればするほどコストは下がり、安定供給に向けた技術も進歩する。カーボンニュートラルは再エネだけで実現可能です。一方、原発は安全対策や地元協力にお金がかかり、これ以上安くなる見込みもない。経済合理性からこの先、原発は自然淘とう汰たされていく運命にある。推進派の人たちもそのうち分かってくると思う」
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――菅首相の原発に対する姿勢をどうみるか。首相は1月の施政方針演説では「安全最優先で原子力政策を進め、安定的なエネルギー供給を確立する」とひと言だけ触れた。
「国会以外で、菅総理の原発に関する具体的な発言は聞いたことがない。推進でも反対でもない、フラットなイメージですね。ただ、再エネ推進に対する思いは、安倍晋三前首相とは比較にならないくらい強いと感じる。安倍政権時代、私が再エネについて説明する機会が、安倍前首相に対しても、官房長官だった菅総理に対しても何度かあった。その時に返ってきた質問やコメントは、菅総理の方が安倍前首相の何十倍も『熱量』があると感じた。反応が全く違いましたから」
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――九州の再エネへの期待を。
「九州は北海道と並んで、再エネのポテンシャルが高い。響灘(北九州市)の洋上風力発電所計画もあるし、太陽光も有望だ。九州電力は早くから地熱発電に取り組み、電力事業者の中でも再エネに理解ある会社だと思います。九州は、再エネで日本をリードする地域になり得ますよ」 ◇ あきもと・まさとし 1975年、千葉県富里市出身。富里市議を経て衆院千葉9区で3期連続当選。国土交通政務官など歴任。自民党の再生可能エネルギー普及拡大議員連盟事務局長。超党派議連「原発ゼロの会」所属。
記者ノート】野党議員を凌駕するその「熱量」
壁際に飾られた、菅義偉首相とのツーショット写真。東京・永田町の衆議院第1議員会館12階にある秋本真利氏の部屋は、ごく一般的な自民党議員らしい雰囲気だった。財界と堅固なスクラムを組んできた党の方針に反して脱原発を唱え続けると聞けば、とんがった異端児を想像されるかもしれない。だが、インタビューの間、「上に物申してやる」といった気負いは全く感じなかった。 ただ、脱原発と再生可能エネルギー普及に向けるその熱意が、永田町でも随一であるのは間違いない。原発反対を党是とするような野党の議員であっても、「原発の非合理性」と「再エネの将来性」を1時間ぶっ通しで弁ずる議員は、そうはいないのだ。常に私の目を正面から見て話す真剣さも印象に残った。