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旧ソ連・チェルノブイリ原発や福島第一原発の周辺で住民の被ばく状況を調査し続けている木村真三・独協医科大准教授の調査でも同様の結果が出た。 木村氏は四月下旬から、食べ物での内部被ばくを調べる手法の「マーケット・バスケット法」で山菜を調査。各県を車で回り、人口十万人以上の都市を中心に直売所や道の駅で山菜を購入。新型コロナウイルス対策で毎朝検温し、マスクや消毒を徹底した。 その山菜を大学の福島分室にあるゲルマニウム半導体検出器で測定。多くは基準値を下回るか不検出だった。しかし、出荷が規制されていない秋田県産と表示されたコシアブラから基準の二倍を超える一キロ当たり二一〇ベクレルを検出した。 こんな状況なのに、国会では基準緩和に進みそうな質疑があった。 五月十九日の衆院復興特別委員会で、福島選出の根本匠元復興相(自民)が質問に立ち、現在の食品基準を「科学的、合理的か」と指摘。厳しすぎる基準で出荷規制が続いたために「一次産業は大きな打撃を受けている。政策判断の基本は科学がベースにあるべきだ」と訴えた。 福島選出の菅家(かんけ)一郎復興副大臣が「基準に関する科学的な検証の重要性は十分理解している。被災地や関係者の意見も聞きながら議論したい」と答え、福島の地元紙は「基準値を検証へ」と記事を掲載した。 復興庁に確認すると、井浦義典参事官が「副大臣は検証するとは明確に言っていない。元復興相も基準値を『見直せ』というわけではない。今後の方針は検討していくとしか言えない」と答えた。 木村氏は国会のやりとりを警戒する。「政府が基準緩和に向かえば、国民の被ばくリスクは高まる。直売所やネット上で売る人の被ばくへの意識が風化したから、基準値超えの品が出た。出荷する人に責任を持たせ、それを行政が監視するダブルチェックの体制が必要だ。風評被害を恐れるあまり真剣に調べない自治体も、実害が続いていることを認識するべきだ」 福島県飯舘(いいたて)村で土や山菜の汚染状況を調べている伊藤延由(のぶよし)さん(76)は「農作物なら、田畑の土を管理して汚染を防げる。基準を緩和しても良いだろう。しかし、山菜やキノコはするべきではない。汚染は場所により濃淡が激しい。特に山は除染しておらず、汚染が残っている。山菜やキノコを流通させるなら、基準の緩和より全量測定した方がいい」と語った。