国際放射線防護委員会(ICRP)が、大規模原発事故時の新たな防護基準についてパブリックコメントを募集していることを受け、環境団体など7団体が緊急の記者会見を開き、「福島の教訓を反映されていない」と批判。日本の多くの市民がパブリックコメントを送るよう呼びかけた。
「大規模原子力事故時の人と環境の放射線防護」
「Radiological Protection of People and the Environment in the Event of a Large Nuclear Accident」
ICRPがパブコメを募集しているのは、「大規模原子力事故時の人と環境の放射線防護」と題する98ページにのぼる英文の報告書。この報告書をもとに、原発事故後の緊急時の防護基準を勧告する「109勧告」と、回復期(現存被曝状況)に関する「111勧告」の2つの勧告を見直すとしている。
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「order」の意味は?~1ミリシーベルトをめぐる
今回の勧告で、「回復期」の参考レベルと記載されているのは、「10mSv」という数字だけ。従来は「20mSvから1mSvのできるだけ下方に参考レベルを置き、その代表的な数値は1mSvである」とされていたことと比べると、大きな緩和となる。
このことについて、原子力資料情報室の片岡遼平さんは、「甲斐委員によって公開された日本語訳の抜粋には、「⻑期的な目標は年間 1 mSv 程度まで被ばくを低減することである」と訳されているが、原文は、「The long-term goal is to reduce exposures to the order of 1mSv per year」。「「order」という言葉は、物理学の世界では桁数のことを意味しており、1〜9を意味する」と指摘し、「10ミリ以下は防護する必要がないという、大幅な緩和につながる恐れがある」と反発した
「被災者守れない」〜パブコメ呼びかけ
「新勧告案では被害者を守れない。」と静かに語るのは、国際環境NGOグリンピースの鈴木かずえさん。鈴木さんは、「当事者の声を聞かずに作りってしまい、当事者が何に悩んで苦しんでいるかっていうことが全く反映されていない。新勧告案では、そういった苦しんでいる人たちが全く守れない。このままだと守れないので、守れるように、なるべく多くの人に、特に福島の人に、パブコメを出して欲しいと思う」と呼びかけた。
ICRP勧告は被曝防護の基準として、世界各国の法令などに反映される。瀬川氏は「福島原発事故に関する誤った認識が、世界に広められて、世界の原発や原発事故に適用されていくということなので、日本だけじゃない重大な問題」と述べた。
チェルノプイリと福島の実相反映されず
同報告は、チェルノブイリ原発事故と、福島原発事故の2つの過酷事故の経験についても記載がある。しかし、チェルノブイリ原発事故の調査を続けていきた「チェルノブイリ被害調査・救援」女性ネットワークの吉田由布子さんは、記述内容にばらつきがあり、偏りが大きいと批判。また、汚染地域を規定し、被災者の救済を定めている「チェリノブイリ法」についてまともな記載がほとんどなく、問題があるとの見方を示した。
さらに郡山市から神奈川県に避難している元看護師の松本徳子さんは、「看護師時代、被曝は線量が増えれば、増えるだけリスクが高まると習い、厳格に被曝を管理していた。1ミリを超えるということはなかった」と述べ、「事故が起きたら基準が変わり、子どもまでもが、労働者の基準より緩和されるなどあってはならない」と怒りをあらわにした。 […]