トリチウムの健康被害について via 市民のためのがん治療の会

顧問 西尾 正道

●はじめに

[…] 有識者は足かけ6年にわたりトリチウムを含んだ処理水の処分策について検討してきたが、その結論として5つの処分方法を提示した。 その処分方法別の費用は34億円~3976億円と大きな幅があるが、結論としては最も安い費用で済む海洋放出(費用34億円)を行おうとしている。 この方針は東電会長ばかりではなく、原子力規制委員会の更田豊志委員長も「希釈して海洋放出が現実的な唯一の選択肢」と記者会見で述べ、寄生委員会化している。

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公聴会の資料では「トリチウムは自然界にも存在し、全国の原発で40年以上排出されているが健康への影響は確認されていない」と安全性を強調し、 また「トリチウムはエネルギーが低く人体影響はない」と安全神話を振りまいています。 しかし、世界各地の原発や核処理施設の周辺地域では事故を起こさなくても、稼働させるだけで周辺住民の子供たちを中心に健康被害が報告されている。 その原因の一つはトリチウムと考えられるが、本稿ではそのトリチウムの危険性を論じる。

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●トリチウム【tritium】(記号:T)とは

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問題なのは、原子力発電では事故を起こさなくても稼働させるだけで、原子炉内の二重水素が中性子捕獲によりトリチウム水が生成され、膨大なトリチウムを出すことです。 トリチウムはβ崩壊して弱いエネルギーのβ線を出してヘリウム3(3He)に変わります。 β線の最大エネルギーは18.6keV、平均エネルギーは5.7keVで物理学的半減期は12.3年です。 体内での飛程0.01mm(10μm)ほどです。このため原子力政策を推進する人達はエネルギーが低いので心配ないとその深刻さを隠蔽し、海に垂れ流しています。 人間の体内では、水素と酸素は5.7eVで結合し水になっています。 トリチウムの平均エネルギーは5.7KeVであり、その1000倍以上のエネルギーです。

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 経口摂取したトリチウム水は尿や汗として体外に排出されるので、生物学的半減期が約10日前後であるとされています。 また気体としてトリチウム水蒸気を含む空気を呼吸することによって肺に取り込まれた場合は、そのほとんどは血液中に入り細胞に移行し、体液中にもほぼ均等に分布します。 問題なのは、トリチウムは水素と同じ化学的性質を持つため体内では主要な化合物である蛋白質、糖、脂肪などの有機物にも結合し、 化学構造式の中に水素として組み込まれ、有機結合型トリチウム(OBT:Organically Bound Tritium)となり、トリチウム水とは異なった挙動をとります。 この場合は一般に排泄が遅く、結合したものによってトリチウム水よりも20~50倍も長いとする報告もあります。 有機結合型トリチウム(OBT)の体内蓄積のパターンの一つは原⼦⼒施設から出るトリチウム⽔の⽔蒸気によって汚染された⼟地で育った野菜や穀物ばかりでなく生物濃縮した⿂介類などの⾷物を摂取することであり、 もう一つはトリチウム⽔の飲食や吸入などによって、⼈体が必要とする有機分⼦の中にトリチウムを新陳代謝して摂り込みます。 なお放射線の生物学的効果を表すRBE(Relative Biological Effectiveness,生物学的効果比)は、γ線は1であるが、トリチウムのβ線は1ではなく、1~2の間という報告が多く、より影響が強いと考えられます。

●トリチウムの人体影響

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 放射線の影響は基本的には被曝した部位に現れます。 エネルギーが低くても水素として細胞内の核に取り込まれ、そこで放射線を出して全エネルギーを放出するわけですから影響が無いことはないのです。 有機結合型トリチウムは結合する相手により体内の残留期間も異なります。 図1に人体影響のポイントをまとめて示しますが、トリチウムは他の放射性核種と違って、放射線を出すだけではなく化学構造式も変えてしまうのです

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内部被曝による人体影響はマンハッタン計画以来、軍事機密とされ隠蔽され続けており、トリチウムもそのひとつなのです。 トリチウムがほとんど無害とされ、極端な過⼩評価をされてきたのは、ICRP(国際放射線防護委員会)の線量係数の設定によります。 内部被曝を計算する「実効線量換算係数」は放射性物質1Bqが⼈体全体に与える影響度の単位(Sv)に換算する「係数」のことですが、 1Bq という測定可能な物理量を「⼈体全体に与える影響度」などという「仮定量」に換算するという話⾃体が詐欺的な疑似科学です。 

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●原発稼働による健康被害の報告

1945年の原爆投下から始まった環境へ放出され続けている人工放射性物質との出会いは人類にとって初めて経験する負の世界です。 特に戦後の大気中核実験による核分裂で生じた放射性物質は土壌と海洋汚染をもたらし、我々は無意識のうちに体内に多かれ少なかれ放射性物質を取り入れているのです。 ただ測定していないだけなのです。原発通信が最近まとめた日本を含む世界各地の原発周辺地域の健康被害の報告を表1に示します。

 

表1 原発は通常運転時でも住民に健康被害を及ぼす

資料:原発通信1070 通常運転時の健康被害2(http://genpatu-no.jugem.jp/?eid=63)
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