国会の原発事故調査委員会(黒川清委員長)の最終報告は、原発事故は人災だったとして、「日本人の国民性」が事故を拡大させたと指摘した。元原子炉設計者 である大前研一氏は、人災などの指摘は的外れであり、何重もの安全技術で守られていたはずの原発が今回のような事故に至ったのかという技術的・根本的な検 証こそが事故調査の第一義ではないかと疑問を呈する。
(中略)
その象徴が、原子力安全委員会の班目(まだらめ)春樹委員長だ。私の手元には、班目委員長が「原子力ムラ」の住人だったことを示す“証拠”がある。 経産省の「保守管理検討会 保守管理技術評価WG(ワーキンググループ)検討状況」(2007年)というA4判38枚の資料で、このWGの主査を務めてい たのが、東京大学大学院教授の班目氏なのだ。
このWGは、当時13か月以内だった日本の原子炉の運転期間(定期検査間隔)を、フランス並みの18か月以内やアメリカ並みの24か月以内に引き 延ばすことなどを議論したもので、その結果、2009年1月の経産省令施行によって検査制度が変更され、「18か月以内」「24か月以内」への延長が可能 になった。それに伴い、東通原発1号機と福島第二原発3号機が16か月への延長を申請したが、その直後に東日本大震災が起きたため、従来のままになってい る。
要するに班目氏は電力会社となあなあの関係にあった“御用学者”であり、電力会社の依頼を受けてWGの主査を務めていたものと私は見ている。原子 力安全委員会の委員長までが原子力ムラの住人だったというか、もともと原子力ムラの住民だった人間が原子力安全委員会の委員長になっていたわけで、これこ そが福島第一原発事故で原子力安全委員会が機能しなかった理由にほかならない。
班目氏はプラント屋で炉心に関する専門知識が足りなかっただけでなく、世話になっている東電や原子力安全・保安院の意に反することを菅直人首相にアドバイスするわけにはいかなかったのだろう。