Tag Archives: 刑事裁判

「責任は現場にある」は本当なのか  第33回公判傍聴記 via Level 7 News

添田孝文 10月30日の第33回公判では、勝俣恒久・東電元会長の被告人質問が行われた。勝俣氏は2002年10月から代表取締役社長、2008年6月からは代表取締役会長を務めていた。敷地を超える最大15.7mの津波計算結果は原子力・立地本部長の武黒一郎氏まであがっていたが、それについて勝俣氏は「知りませんでした」と述べた。「原子力安全を担うのは原子力・立地本部。責任も一義的にそこにある」と、自らの無罪を主張した。一方で、福島第一原発の津波のバックチェックが遅れていたことは認識していたと述べた。 […] 「責任は原子力・立地本部にある」 勝俣氏は、現場に任せていたから自分に責任は無いと一貫した姿勢で繰り返した。 「社長の権限は本部に付与していた。全部私が見るのは不可能に近い」 「そういう説明が無かったんじゃないかと思います」 「私まで上げるような問題ではないと原子力本部で考えていたのではないか」 「いやあ、そこまで思いが至らなかったですねえ」 […] 「津波は少し遅れてもやむを得ない」 津波対策のため防潮堤建設に着手すれば、数年間の運転停止を地元から迫られる経営上のリスクがあった[1]。原発を止めれば、その間に代替火力の燃料代が数千億円オーダーで余計にかかる[2]。津波対策工事に数年かかるならば、津波対策費用は兆円オーダーに達する可能性もあった。 その重大なテーマに、勝俣氏が関心を持っていなかったとはとても考えにくい。御前会議の議事録によると、一つの変電所の活断層の対応について勝俣氏が細かな指示をしていた。そのくらい、細かなことも見ていたのだ。 しかし、御前会議の配布資料にあった津波高さなど細部については、勝俣氏は「聞いていない」と繰り返した。一方で東電の津波対応が遅れているという認識はあったことを認め、以下のように述べていた。 「東電は日本最大の17基の原発を持つ。バックチェックで津波は少し遅れても、やむを得ないと考えていた」 「よくわかりませんけれど、(バックチェックのスケジュールが)後ろに延びていった気がします」 福島第一は安全なのか、最新の科学的知見に照らし合わせて点検する作業がバックチェックだ。それを完了しないまま、漫然と運転していることを知っていたのだ。 東電には原発が17基ある。だから、数基しかない他の電力会社より安全確認が遅れても「やむを得ない」という勝俣氏。トラックをたくさん持っている運送業者は、数台しか保有しない業者より車検が遅れても「やむを得ない」と言っているのと同じだろう。なぜ「やむを得ない」のか、理解できない。 […]

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「津波の高さの想定を下げろ」原発事故を招いた東電副社長の一言 via MAG2NEWS

2011年3月に発生した福島第一原発事故。あれから7年以上の月日が経っていますが、未だ故郷の土を踏めずにいる人々が多数います。その責任はどこの誰が負うべきなのでしょうか。元全国紙社会部記者の新 恭さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、事故を巡り東京電力の旧経営陣が訴えられた裁判の内容を詳細に分析し、責任の所在を判断する基準を提示しています。 大津波「長期評価」を歪めた内閣府、対策を怠った東電 福島第一原発事故をめぐる経営者の刑事責任を問う東電裁判で、10月16日の第30回公判から旧経営陣に対する被告人質問がはじまった。 原発の安全対策を担当していたのが、最初に登場した武藤栄元副社長だ。 「想定外だった」と主張し続けてきた東電だが、この裁判のなかで、政府の専門部会による「長期評価」にもとづき、最大15.7メートルの津波が福島の原発を襲う可能性があると、事故の3年前に東電内部で試算されていたことが判明している なのに、対策が講じられることはなく、武藤元副社長は「土木学会に検討を依頼せよ」と部下に指示していた。いわば「検討」という名の先送りだ。 検察官役の指定弁護士にこの点を問われた武藤氏は「長期評価の信頼性は専門家でも意見がばらつき、報告した担当者から信頼性がないと説明を受けた」と語った。つまり「長期評価」を重視しなかったことを明らかにしたわけである。 最大15.7メートルの津波を想定して沖合に防潮堤を建設する場合、数百億円規模の工事費がかかり、工期も4年と見込まれた。 絶対安全ということはありえないが、こういう試算が出た以上、最大限の対策を立てるのが、原子力をあずかる会社の責務であろう。経営陣のソロバン勘定で、安全対策がないがしろにされたと疑われても仕方がない。 武藤氏に津波の計算結果を報告した社員の1人は会社の対応について「津波対策を進めていくと思っていたので予想外で力が抜けた」と法廷で証言した。 長期評価」を重視する社員もいたのに、経営陣はあえて軽んじた。なぜ、その差が生まれるのか。見過ごせないのは、「長期評価」に対する政府の姿勢だ。 「長期評価」の信頼度を低める画策が「原発ムラ」と内閣府の間で進められた形跡がある。 今年5月9日の第11回公判。「長期評価」をまとめた政府の地震調査研究推進本部・長期評価部会の部会長、島崎邦彦氏(東京大学地震研究所教授)が証言した内容は衝撃的だった。 島崎氏の部会は原発事故の9年前(2002年)、「三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域のどこでも、マグニチュード8.2前後の地震が発生する可能性があり、その確率が今後30年以内に20%程度」という「長期評価」を公表していた。 地震調査研究推進本部は阪神・淡路大震災後に設置された。文科省の管轄下にある機関だが、総理大臣を本部長とし全閣僚、指定公共機関の代表者、学識経験者で構成される内閣府・中央防災会議の意見を聞かなければならない。つまり内閣府にコントロールされやすい。 島崎氏は部会長として、研究者たちのさまざまな考え方を取りまとめた経緯を法廷で詳細に述べた。地震波解析、GPS、古文書、地質、地形…異なる分野から出された意見をもとに「最も起きやすそうな地震を評価してきた」という。 しかし、この「長期評価」の公表予定日だった2002年7月31日の5日ほど前、意外なことが起きた。 事務局の前田憲二氏(文科省地震調査研究課管理官)から、島崎氏にメールが届き、そこに、内閣府の地震・火山対策担当、齋藤誠参事官補佐の文書が添付されていた。 そして、その内容は「非常に問題が大きく…今回の発表は見送りたいが、それがだめなら最低限、表紙の文章を添付ファイルのように修正してほしい」という趣旨だったというのだ。 「科学的ではない」と、内閣府の判断を訝った島崎氏は「修正文をつけるくらいなら出さないほうがいい」と反対し、言い合いになったが、結局は押し切られた。政府の有識者会議が政官に癒着した勢力の影響を避けられない構図がここにも見てとれる。 この結果、「長期評価の信頼度について」という文面が表紙に付け足されてしまった。以下は、その内容の一部だ。 今回の評価は、現在までに得られている最新の知見を用いて最善と思われる手法により行ったものではありますが、データとして用いる過去地震に関する資料が十分にないこと等による限界があることから、評価結果である地震発生確率や予想される次の地震の規模の数値には誤差を含んでおり、防災対策の検討など評価結果の利用にあたってはこの点に十分留意する必要があります。 はじめからこのような「断り書き」があったのでは、「長期評価」をなめてかかることを政府が認めているのに等しい。 […]     全文

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「「Integrity(真摯さ)」を大切にしていた?」刑事裁判傍聴記:第31回公判(添田孝史)via 福島原発刑事訴訟支援団

添田孝文 […] 最も安全意識の低かった東電 武藤氏は「地震本部の長期評価に、土木学会手法を覆して否定する知見は無かった」とも述べた。しかし反対に、土木学会手法に、長期評価を完全に否定できる根拠も無かった。 「土木学会手法は、そこ(福島沖)に波源を置かなくても安全なんだという民間規格になっていた。それと違う評価があったからと言って、それをとりこむことはできません」 武藤氏のこの陳述は、事実と異なる。他の電力会社は、土木学会手法が定めている波源以外も、津波想定に取り込んでいた。 東北電力は、土木学会手法にない貞観地震の波源を取り入れて津波高さを検討し、バックチェックの報告を作成していた。 中部電力は、南海トラフで土木学会手法を超える津波が起きる可能性を保安院から示され、敷地に侵入した津波への対策も進めていた。 日本原電は、東電が先送りした長期評価の波源にもとづく津波対策を進めていた。原電は「土木学会に検討してもらってからでないと対策に着手出来ない」と考えていなかったのだ。 「津波がこれまで起きていないところで発生すると考えるのは難しい」と武藤氏は述べた。これも間違っている。 2007年度には、福島第一原発から5キロの地点(浪江町請戸)で、土木学会手法による東電の想定を大きく超える津波の痕跡を、東北大学が見つけていた。土木学会手法の波源設定(2002)では説明できない大津波が、貞観津波(869年)など過去4千年間に5回も起きていた確実な証拠が、すでにあったのである。 土木学会が完全なものとは考えていなかった他社は、どんどん研究成果を取り入れて新しい波源を設定し、津波想定を更新していた。東電だけがそれをしなかった。Safetyのレベルは、電力会社の中で、東電が最も低かったことがわかる。 […]   全文

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この裁判見逃せない via 福島原発刑事訴訟支援団

『この裁判見逃せない』 ◆ (YouTube)版  https://youtu.be/V_FKeOJ38oM (Facebook)版  https://www.facebook.com/shien.dan.org/videos/272098930095065/ (twitter)版 https://twitter.com/shien_dan/status/1046223724288958464  (Webサイト)版 https://shien-dan.org/     ◆支援団オリジナルソング  『真実は隠せない』 ◆ https://shien-dan.org/ ◆緊急出版!! ブックレット 『東電刑事裁判で明らかになったこと 予見・回避可能だった原発事故はなぜ起きたか』 ◆ 海渡雄一 編著 福島原発刑事訴訟支援団 福島原発告訴団 監修 彩流社   定価1000円+税 http://www.sairyusha.co.jp/bd/isbn978-4-7791-2535-5.html (9月の公判までの最新版) (10月16日発売開始 *一般書店、オンラインショップでも購入できます)

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福島原発刑事訴訟、被告人質問が始まりますvia 副島原発刑事訴訟支援団

『福島原発刑事訴訟支援団からのお願い』                   https://shien-dan.org/       福島原発刑事訴訟は、10月16日に第30回公判(東京地裁104号法廷)が開かれ、被告人質問が始まります。   9月の公判では、証拠採用された東電社員の調書に、非常に重要な証言がありました。   被害関係者の調書等では、双葉病院遺族はもちろん、東電関係者からも「責任の所在が明らかになってほしい」という証言がありました。   いかに津波対策を怠ったのか、具体的に生々しい証言、証拠が次々と示され、原発事故が防げたことが明らかになりました。   刑事裁判は大詰めを迎えます。       <拡散のお願い>                                ◆緊急出版!!    (10月16日発売開始)   『東電刑事裁判で明らかになったこと 予見・回避可能だった原発事故はなぜ起きたか』       海渡雄一 編著       福島原発刑事訴訟支援団 福島原発告訴団 監修       彩流社   定価1000円+税  http://www.sairyusha.co.jp/bd/isbn978-4-7791-2535-5.html   (9月の公判までの最新版)   <目次> 1.はじめに 2.双葉病院等の大量死は福島原発事故被害の象徴である -人間の尊厳が守られなかった過酷な避難による死 3.推本の長期評価に基づく津波対策は必要であった 4.津波計算はバックチェックの基準津波を策定するため 5.津波対策について東電内で何が行われていたのか … Continue reading

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「事故がなければ、患者は死なずに済んだ」刑事裁判傍聴記:第二十六回公判(添田孝史)via 福島原発刑事訴訟支援団

添田孝文 […] 地震と津波だけなら助かった 証人は、福島第一原発から4.5キロの場所にある大熊町の双葉病院で、事故当時、副看護部長を務めていた鴨川一恵さん。同病院で1988年から働いていたベテランだ。避難の途上で亡くなった患者について、検察官役の弁護士が「地震と津波だけなら助かったか」という質問に「そうですね、病院が壊れて大変な状況でも、助けられた」と述べた。 […] 継続的な点滴やたんの吸引が必要な寝たきり患者が多く、せいぜい1時間程度の移送にしか耐えられないと医師が診断していた人たちだ。本当は、救急車などで寝かせたまま運ぶことが望まれていた。 鴨川さんは、「バスの扉を開けた瞬間に異臭がして衝撃を受けた。座ったまま亡くなっている人もいた」と証言した。バスの中で3人が亡くなっていたが「今、息を引き取ったという顔ではなかった」。体育館に運ばれたあとも、11人が亡くなった。 高い線量、連絡や避難困難に 福島第一3号機が爆発した3月14日に、双葉病院で患者の搬送にあたっていた自衛官の調書も読み上げられた。「どんと突き上げる爆発、原発から白煙が上がっていた」「バスが一台も戻ってくる気配がないので、衛星電話を使わせてもらおうと、(双葉病院から約700m離れた)オフサイトセンターに向かいました。被曝するからと、オフサイトセンターに入れてもらうことが出来ませんでした」。 オフサイトセンター付近の放射線量は、高い時は1時間あたり1mSv、建物の中でも0.1mSvを超える状態で、放射性物質が建物に入るのを防ぐために、出入り口や窓がテープで目張りされていた。自衛官はオフサイトセンターに入ることが出来なかったため、持っていたノートをちぎって「患者90人、職員6人取り残されている」と書き、玄関ドアのガラスに貼り付けた。 病院からの患者の搬送作業の最中、線量計は鳴りっぱなしですぐに積算3mSvに達し、「もうだめだ、逃げろ」と自衛隊の活動が中断された様子や、県職員らが「このままでは死んじゃう」と県内の医療機関に電話をかけ続けても受け入れ先が確保できず、バスが県庁前で立ち往生した状況についても、供述が紹介された。 これまで、政府事故調の報告書などで、おおまかな事実関係は明らかにされていた。しかし、当事者たちの証言や供述で明らかになった詳細な内容は、驚きの連続だった。刑事裁判に役立つだけでなく、今後の原子力災害対応の教訓として、貴重な情報が多く含まれていたように思えた。           全文

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「原発停止回避で先送り」=津波対策、元幹部が説明-東電公判 via Jiji.com

 東京電力福島第1原発事故で、業務上過失致死傷罪で強制起訴された旧経営陣3人の公判が5日、東京地裁(永渕健一裁判長)であった。安全対策担当の元同社幹部が、事故前に同原発の津波対策が先送りされた理由などを検察官に説明した調書が証拠採用され、「原発が運転停止になるのを避けたかった」との内容が読み上げられた。 調書によると、東電は2008年3月の常務会で、政府機関が公表した「長期評価」に基づいて津波対策を行うことを決定した。しかし、長期評価を基に襲来可能性のある津波高を試算し、「最大15.7メートル」との結果が示されると、方針を転換。同7月、元副社長武藤栄被告(68)が対策の先送りを決めた。 元幹部は検察官に対し、「長期評価に基づけば、対策工事に時間がかかり、原発が停止される可能性があった。費用も数百億円規模で、会社としてリスクが大きかった」と説明。一方、試算が原発の敷地高を超えない10メートル以下だったとしたら、「長期評価を取り入れる方針が維持され、対策が講じられたと思う」と述べていた。(2018/09/05-20:22)     原文

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検証請求に関する意見陳述 via 福島刑事訴訟支援団

  指定弁護士は,平成29年3月10日付け検証請求書で,福島第一原子カ発電所,双葉病院,ドーヴィル双葉,救助避難経路において検証するよう求め,また,同年9月19日に補充意見書,平成30年7月20日に補充意見書(2)を提出しました。本日は,福島第一原子カ発電所及びその周辺の検証の必要性について意見を述べます。 1 はじめに 本件の争点の一つは,被告人らに本件事故を予見することができたかどうか,予見できたとして結果を回避できたかどうかです。 (1) この争点を判断するには 同発電所の10メートル盤を超える津波が襲来する 10メートル盤上に設置されている建屋内部に浸水する 建屋内にある非常用発電機や電源盤が被水して交流電源を失う 交流電源が失われたことにより,非常用電源設備や冷却設備等が機能を喪失する その結果,原子炉の炉心に損傷を与え,水素爆発を発生させる という事故発生の経過を,具体的,現実的に理解することが不可欠です。 […]         全文

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福島第1原発事故 強制起訴公判 東電、津波対策に温度差 試算担当社員「不可避」、元副社長「先送り」指示 via 毎日新聞

東京電力福島第1原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電旧経営陣3人に対する東京地裁の公判がヤマ場を迎えている。 […] 東電は2007年、第1原発の津波対策の見直しを始めた。前年に原子力安全・保安院(当時)が電力会社に地震・津波対策の再評価(バックチェック)を求めたためだった。  対策のポイントは、02年に政府の地震調査研究推進本部が「福島沖を含む日本海溝沿いで巨大津波が発生しうる」とした「長期評価」を採用するか否か。長期評価を受け入れれば、大規模な対策は避けられなかった。 […] 東電は元々、再評価結果を09年6月までに原子力安全・保安院に報告する予定だった。しかし「先送り」後の08年12月に報告の延期を発表。結局、原発事故まで報告されることはなかった。  なぜ「先送り」したのか。今後は「15・7メートル」の基になった長期評価の信頼性が焦点となる。GMは「対策に取り入れるべきだが、科学的根拠は乏しいと思った」とも証言。一方、長期評価をとりまとめた島崎邦彦・東大名誉教授は法廷で「十分考慮すべきもので、(長期評価に基づき)対策を取れば事故は防げた」と述べた。公判は今後も地震学の専門家に対する証人尋問が続き、今秋にも被告人質問に移る見通しだ。     全文

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刑事裁判傍聴記:第9回公判(添田孝史) 「切迫感は無かった」の虚しさvia福島原発告訴団

4月27日の第9回公判は、前回に引き続いて、津波評価を担当する本店原子力設備管理部土木グループ(2008年7月からは土木調査グループ)を統括していた酒井俊朗氏が証人だった。 裁判官とこんなやりとりがあった。 裁判官「早急に対策を取らないといけない雰囲気ではなかったのか」 酒井「東海、東南海、南海地震のように切迫感のある公表内容ではなかったので、切迫感を持って考えていたわけではない」 裁判官「15.7mが現実的な数字と考えていたわけではないのか」 酒井「原子力の場合、普通は起こり得ないと思うような、あまりに保守的なことも考えさせられている。本当は、起きても15mも無いんじゃないかとも考えていた」 高い津波は、切迫感がある現実的なものとは認識していなかった。だから罪はない、と主張しているように聞こえた。 東電幹部が乗用車の運転をしていて、それによる事故の責任を問われているならばこの論理も説得力を持つだろう。しかし責任を問われているのは、原子力発電所の「安全運転」についてだ。事故の死者は交通事故の数万倍になる可能性もあり、東日本に人が住めなくなる事態さえ引き起こすのである。はるかに高い注意義務がある。 そのため、普通は起こり得ないようなことまで想定することが原発の設計では国際的なルールになっている。具体的には、酒井氏が説明したように、10万年に1回しか大事故を引き起こさないように安全性を高めなければならない。  数十年間の運転中に起きる確率は低いから、その津波に切迫性は無い。あるいは、これまで福島沖で発生したことは過去400年の文書には残っていないから現実感は無い。そんな程度では、高い津波にすぐに備えない理由にならないのだ。 ◯地震本部の長期評価(2002)は根拠がない? 相変わらず弁護側の宮村啓太弁護士の尋問の進め方はわかりやすかった。法廷のスクリーンで映し出すグラフの縦軸、横軸の読み方を丁寧に説明するなど、プレゼンテーションのツボがおさえられている。原発のリスクを示す指標である確率論的リスク評価(PRA)について、宮村弁護士の解き明かし方は、これまで聞いた中で一番わかりやすかった。PRAの専門家である酒井氏が「あなたの説明がよっぽどわかりやすい」と認めたほどだった。 そのプレゼン術で、宮村弁護士は、地震本部の長期評価(2002)の信頼性は低いと印象づけようとしているように見えた。 宮村「長期評価をどうとらえたのですか」 酒井「ちょっと乱暴だと思いました。これは判断であって、根拠が無いと思っていました」 言葉を変えながら、こんなやりとりが何度も繰り返された。 そして、宮村弁護士と酒井氏が時間をかけて説明したのが、米国で行われている原子力のリスク評価の方法だ。法廷では、酒井氏が電力中央研究所でまとめた研究報告(*1)が紹介された。 酒井氏は、どんな地震が起きるか専門家の間で考え方が分かれている時は、専門家同士が共通のデータをもとに議論することが大切であると強調した。 不思議なのは、酒井氏の研究報告が「長期評価の信頼性が低い」という弁護側主張と矛盾していることだ。長期評価(2002)は、文部科学省の事務局が集めた共通のデータをもとに専門家が議論して、地震の評価を決めている。酒井氏の推薦する方法そのものである。 一方、東電が福島沖の津波について2008年に実施したのは、個々の専門家に、共通のデータを与えることなく、意見を聞いてまわる調査方法だった。「米国では問題があるとして使われなくなった」と酒井氏が証言した方法そのものである。 酒井氏の証言には、こんな「あれっ」と思わされる論理のおかしさがあちこちに潜んでいた。 […]       全文

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