東京電力は3日、福島第一原発(福島県大熊町、双葉町)の汚染水を浄化処理した後の水の海洋放出に向け、海底トンネルなどの設備工事を4日に始めると発表した。来年春の放出開始を目指すが、気象条件などで海上工事が遅れた場合、設備の完成は来年夏ごろにずれ込む可能性があるという。漁業関係者を中心に反対の声は強く、実際に放出できるかは不透明だ。(増井のぞみ)
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東電は、一部の工事は同意の対象外として進めており、海底トンネルにつながる貯水槽が入る穴は掘り終えた。 記者会見した東電福島第一廃炉推進カンパニーの松本純一氏は、理解が得られなければ海洋放出はしないとした福島県漁連との約束文書について「漁業関係者との文書は順守することで間違いない」と明言。ただ、理解を得ていく道筋については「説明を尽くす」と繰り返すだけだった。
着工前に東電幹部が漁業関係者に説明するかを問われると、「予定はない」と答えた。一方、岸田文雄首相は同日に全国漁業協同組合連合会の坂本雅信会長と面会。漁業継続のための大型基金について「使い方は漁業者の意見を聞いた上で、理解を得られるようにしたい」と述べた。
東電の計画では、放射性物質トリチウムが主に残る処理水を大量の海水で薄めて国の排出基準の40分の1未満にし、海底トンネルを通じて沖合約1キロに放出する。
◆「政府に声届かない」市民団体が抗議
東京電力が福島第一原発の処理水の海洋放出に向けた設備工事の開始を発表した3日、福島県の市民団体は県庁前で抗議行動を展開し、原発が立地する自治体の首長らは風評被害対策の徹底などを政府に要請した。
「え、もう始まるの」。3日午後、翌日の着工方針を聞いた「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表の織田千代さん(67)=福島県いわき市=は絶句した。福島県や大熊町、双葉町が工事に同意してからわずか2日後の着工。「引き返せない状態になっていくのでは」と不安を募らせた。
この日の午前には、同会が県庁前で横断幕を掲げて抗議。その後に開いた記者会見で、織田さんは「放出ありきで計画が進んでいる。これだけ反対や不安の声があるのに、政府にはこの声は届かないのか」と憤った。同県伊達市の渡辺馨さん(66)は「工事を進めて既成事実を作り、押し切って海洋放出するのではないかと不安」と懸念した。
福島県の内堀雅雄知事と吉田淳・大熊町長、伊沢史朗・双葉町長は経済産業省を訪れ、萩生田光一経産相に要望書を提出。内堀知事は報道陣に「放出によって福島県民が積み重ねてきた努力が水泡に帰すことがないよう、政府一丸となって(風評被害などに対する)必要な対策をしてほしい」と話した。(片山夏子、増井のぞみ)
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