[…]
告発した市民団体は不起訴処分を不服として、近く検察審査会(検審)に申し立てる方針。検審が「起訴相当」か「不起訴不当」と今後議決すれば、特捜部は再捜査を迫られることになる。
関電では税務調査を機に2019年9月以降、一連の問題が相次いで発覚。市民団体が「不祥事の中で悪質性が高い」としたのが報酬補塡問題だった。
関電は東日本大震災後の経営不振で電気料金の値上げと役員報酬の減額を決定。しかし、当時会長だった森氏が主導して各役員を退任後に嘱託として任用し、減額分を補う仕組みを発案したとされる。社長だった八木氏との協議を経て取締役会に諮らず運用を始め、森氏を含む元役員計18人に16年7月以降、計約2億6000万円が支払われた。
特別背任罪は取締役らが自身や第三者に利益を図る目的で職務に背き、会社に損害を与えた場合に成立する。特捜部は、関電に退任した役員の報酬に関する社内規定がない点に着目。取締役会に諮らなかったことは手続き上の違反と認められず、職務に背いた行為ではないとした。
さらに、森氏らは退任後、実際に関電の業務に当たっていたとして、故意に関電に損害を与える目的があったとは認められないと判断した。関係者によると、旧経営陣側も聴取に「退任後の報酬は嘱託業務に対する正当な対価だ」と主張していた。
一方、高浜原発のある福井県高浜町の森山栄治元助役(19年に死去)から歴代幹部83人が総額約3億7000万円相当の金品を受け取っていた問題では、八木氏とともに岩根茂樹前社長(68)らも特別背任容疑などで告発された。
森山氏の関係企業に原発関連工事の不当な発注があったかどうかが焦点だったが、特捜部は「工事価格の設定に不適正な点は確認できなかった」と指摘。森山氏の死去で金品提供の趣旨が分からず、関電幹部らが森山氏から便宜を図るよう求められたとも認められないため刑事責任を問うのは困難だと結論付けた。
関電は21年7月、大阪国税局の税務調査を受け、役員報酬の補塡問題について約1億9800万円の所得隠しを指摘されたと公表。実態が退職金だったにもかかわらず嘱託報酬に仮装したと認定されており、地検と国税局が異なる判断を示している。【山本康介、榊原愛実】
「市民感覚」で強制起訴の可能性も
不起訴処分を不服として審査が申し立てられると、検察審査会(検審)は「市民感覚」で処分の適否をチェックする。議決内容によっては、捜査対象者が強制的に起訴される可能性もある。
検審は有権者から無作為に選ばれた11人が、捜査記録などを基に処分の妥当性を非公開で審査する。過半数が「不起訴に問題がある」と判断すれば「不起訴不当」、8人以上になると「起訴相当」の議決が出る。
「起訴相当」の場合、検察は再捜査し、原則3カ月以内に改めて刑事処分の適否を判断する。2009年には強制起訴制度が導入された。再捜査で検察が改めて不起訴にしても、検審が2度目の起訴相当の議決を出せば、裁判所指定の弁護士によって起訴される。
一方、最初の審査で「不起訴相当」の議決が出た場合などは捜査は完全に終結する。最高裁によると09年以降、10事件で計14人が強制起訴され、うち2事件で有罪が確定している。【山本康介】