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メディアリテラシーを磨く最適のテキストか? “次世代原発”という甘い果実『パンドラの約束』 via 日刊サイゾー

小泉元総理が“脱原発”を訴えるようになったのは、ドキュメンタリー映画『100,000年後の安全』(10)がNHKで放映されたのを観たことが きっかけだ。その後、小泉元総理は『100,000年後の安全』の舞台となったフィンランドの核廃棄物最終処理場「オンカロ」を視察。核廃棄物の処理が日 本では不可能なことを実感し、“原発ゼロ”を主張するに至った。この国の首相経験者を方向転換させてしまうほどの影響力を、『100,000年後の安全』 という一本のドキュメンタリー映画は持っていた。では、小泉元総理はこちらのドキュメンタリー映画を観たら、どのようなリアクションを見せるのだろうか。 『パンドラの約束』なる、反原発派にとって厄介な作品が公開される。これまで環境保護の立場から原発に反対していた米国や英国の識者たちが、最近になって 次々と“原発推進派”に転じていることを『パンドラの約束』は伝える。2013年に米国のサンダンス映画祭で上映された際に、事前調査では観客の75%が 原発反対だったのが上映後には約8割が原発賛成に変わったという。 『パンドラの約束』を撮ったのは、英国出身、NY在住のロバート・ストーン監督。初めて撮った反核映画『Radio BIKINI』が1987年にアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされるなど“反原子力”の立場で映画を撮り続けてきた。ところが地球環境 保全の重要さを訴えた『Earth Days』(09)を制作するうちに考え方が一変する。このまま原発に反対し火力発電に依存したままだと、地球は温暖化によって近いうちに破滅してしま う。地球を温暖化から守るためには、CO2を排出しない原発しかない。風力発電や太陽光発電は当てにならない。というのがストーン監督の論旨だ。福島の悲 惨な状況を日々見ている日本人の多くから「おいおい、ちょっと待てよ」という声が聞こえてきそうだが、ここはもう少しストーン監督の考えを聞いてみよう。 (略) 月刊誌「WEDGE」(ウェッジ社)の2013年9月号にロバート・ストーン監督のインタビューが掲載されている。気になった箇所を抜粋してみよう。 「我々はおよそ50年の間、商業用の原子力を保持してきました。その間に、世界では3回の原子力事故が起こりました。スリーマイル島、チェルノブイ リと福島です。国連の最も信頼できる科学的見識によると、人の死や放射能による発病が起こったとされている唯一の事故はチェルノブイリです」 「化石燃料による汚染によって、毎年300万人が亡くなっていると推定されています。毎年です。それに比べ、商業用の原子力による死者として確認さ れているのはたった56人のみであり、そしてその全ては(設計に欠陥のある施設で異常な判断ミスのあった)チェルノブイリで起きたものです」 これはストーン監督の明らかな間違いだ。日本では2004年に福井県美浜原発で蒸気噴出事故が起き、点検中だった作業員5名が亡くなっている。商業 炉ではないが、1997年には茨城県東海村のウラン加工施設「JCO東海事業所」で臨界事故が起き、2名が被曝で亡くなっている。世界初の高速増殖炉であ る福井県敦賀市の「もんじゅ」では事故が相次ぎ、関係者が自殺に追い込まれた。またストーン監督が挙げた犠牲者の数には、今回の福島第一原発事故の復旧作 業に従事していた作業員たちが事故や体調不良を訴えて亡くなったケースや避難生活での関連死は含まれていない。でも、そのことを伝えてもストーン監督は、 化石燃料や地球温暖化がもたらす災いに比べれば、無視できるほどの微々たる数字ではないかと反論するのだろう。原発先進国としてフランスのエネルギー政策 を激賞しているが、フランスでも大なり小なりのトラブルは起きているのではないのか。ストーン監督は原発推進派にとって不都合な部分には言及しない。 原発推進派がどのくらいの認識で自説を主張しているのかを知っておく意味でも、『パンドラの約束』は反原発派も観るべき価値のある作品だといえ る。また、冒頭で小泉元総理が方向転換したことに触れたが、言い換えれば元総理は現職中は核廃棄物の危険性を充分理解していなかったということでもある。 一国の舵取りを任された為政者でも、原発についてその程度の知識しか持ち合わせていなかったのだ。原発賛成派も反対派も、まずは『100,000万年後の 安全』と『パンドラの約束』の2作品を見比べてみたほうがいい。経済効果や環境保護について議論する前に、自分たちが普段当たり前のように使っている電気 がどのような仕組みで作られているのかを、もう少しまともに知っておく必要がある。 『パンドラの約束』は次世代原発によってクリーンなエネルギーが隅々まで行き渡った地球が燦然と光り輝く姿を予想して終わりを告げる。このラスト シーンもそのまま受け入れることはできない。地球上から闇が消えてしまうことが本当に明るい未来なのだろうか。最後の最後まで観る側のメディアリテラシー 力を問い掛けてくる、挑発的な作品である。 (文=長野辰次) 全文はメディアリテラシーを磨く最適のテキストか? “次世代原発”という甘い果実『パンドラの約束』

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