原発の60年超運転を可能にするための法制度の見直しを巡り、経済産業省資源エネルギー庁が昨年8月、原子力規制委員会が所管する運転期間を規定した法律の具体的な改正条文案を作成し、規制委側に提示していたことが分かった。本紙の情報公開請求に、エネ庁が開示した。原発を推進する側が、規制側の議論を誘導した実態が鮮明となった。(小野沢健太)
◆「規制のあり方に意見はしていない」
条文案は昨年8月19日、エネ庁が規制委事務局の原子力規制庁との非公開の面談で提示。原子炉等規制法(炉規法)の運転期間に関する条文を削除し、規制委が認可すれば「経済産業大臣が指定する期間」を延長ができる内容だった。
今国会で審議中の炉規法改正案には、追加延長の期間などの記載はなく、エネ庁案とは異なってはいる。
昨年8月の面談では、経産省が所管する電気事業法の条文案も示された。こちらは運転期間の規定を新設するなど、大筋で現在の改正案に沿ったものだった。
エネ庁原子力政策課の担当者は取材に「運転期間を見直すと、炉規法も改正する必要が出てくるので、参考情報として条文案を示した。規制のあり方に意見はしていない」と説明。規制庁原子力規制企画課の金城慎司課長は「エネ庁の条文案を参考にしたことはなく、独立性に問題はない」と話した。
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改正条文案に先立ち、エネ庁が法改正のイメージ図を規制庁に示したのは、昨年7月28日。岸田文雄首相が原子力政策で「政治決断」が必要な項目の検討を指示した翌日だった。
その図には、炉規法が定める運転期間の規定を、電気事業法に「引っ越し」させるとある。原子力基本法など複数の法律をまとめて改正する「束ね法案」にすることも明記されていた。国会審議中の改正案の骨格が既にあり、エネ庁が用意周到だったことが明白だ。
「安全規制が緩んだように見えないことも大事」。エネ庁資料には制度見直しについて、そう記載がある。原子力政策課の担当者は取材に「作成者個人の見解だが、不用意な記載だった」と釈明したが、収束作業が続く東京電力福島第一原発事故の反省が見えない。
エネ庁に、規制庁は「炉規法の改正は規制委で検討する事項であり、意見する必要はない」と伝えはした。だが規制委の委員5人に報告せぬままエネ庁が描いた絵に沿って制度変更案を検討し、老朽原発の運転制限の規定を自ら手放した。
原発の運転期間 東京電力福島第一原発事故の反省を受け、2012年に運転開始から「原則40年、最長60年」とする原子炉等規制法改正案が与野党の賛成で成立。政府は昨年末、再稼働審査などで停止した期間を除外し、60年超運転を可能にする方針を決めた。国会審議中の束ね法案では、運転期間の規定は炉規法から削除され、電気事業法で新たに定めた。運転延長の可否や期間は経産相が認可し、規制委は運転開始後30年を起点に10年以内ごとに劣化を審査する。
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