放射能汚染で「イラク戦争の悲劇」再現も
イギリス政府が主力戦車「チャレンジャー2」とともにウクライナに供与する軍事物資に劣化ウラン弾が含まれていることが、BBCなどの報道によって明らかになった。ロシアは反発を強めており、対抗策として核兵器の使用も辞さないとの姿勢を示している。
砲弾の原料である劣化ウランは、核兵器の製造や原子力発電で使われる濃縮ウランを作り出す過程で発生する放射性廃棄物。その劣化ウランを”有効利用”と称して兵器に使用したのが劣化ウラン弾だ。
劣化ウランの大部分を占めるウラン238は核分裂しにくいが、標的に当たると高温で燃焼して放射性微粒子となって拡散する。そのため、体内に取り込まれて内部被曝を引き起こすなど、人体や環境への悪影響が指摘されている。
5月19日から開催されるG7広島サミットで核不拡散が議題になる中、劣化ウラン弾の使用を問題視する市民グループは「ウクライナの大地を、劣化ウラン弾で汚染させるな」との署名を呼びかけている。集まった署名は岸田文雄首相やG7首脳らに届ける予定だ。
戦車の装甲を貫通する威力
署名を呼びかけているのは、「劣化ウラン弾の使用に反対する市民ネットワーク」。呼びかけ人の一人である「ウラン兵器禁止を求める国際連合」(ICBUW)の嘉指(かざし)信雄運営委員(神戸大学名誉教授)は、「イラクやボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボなどと同じように、ウクライナでも深刻な被害が生じかねない」と危惧する。
「湾岸戦争を皮切りに大量の劣化ウラン弾が使用されたイラクでは、がんや先天性異常を含め、重篤な病気が増えたと報告されている。悲劇をウクライナで繰り返してはいけない」と嘉指氏は訴える。
劣化ウランは1990年の湾岸戦争で初めて使用された。アメリカ軍が用い、イラク軍に壊滅的な損害を与えた。鉄の2.5倍の比重があるため劣化ウランを用いた砲弾は貫通力が高く、イラク軍の戦車の装甲を簡単に破壊した。
だが、命中した際に劣化ウランは高温で燃焼し、酸化ウランの微粒子となって周囲に拡散する。体内に取り込んだ場合、内部被曝の危険性が高まるとともに、重金属としてのウランの化学的毒性が健康被害を及ぼすと指摘されている。