原子力規制委員会は13日、臨時会を開き、原発の60年超運転に向けた新たな規制制度案を決定した。多数決で委員5人のうち4人が賛成、石渡明委員が反対を表明した。老朽原発の規制の在り方を大転換させる重要案件が、委員の意見が一致しないまま決められる異例の事態となり、拙速な決定には、賛成した委員からも疑問の声が上がる。(小野沢健太)
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現行の原子炉等規制法(炉規法)は原発の運転期間を「原則40年、最長60年」と定める。政府は昨年12月、再稼働の審査や司法判断などで停止した期間を運転年数から除外し、実質的に60年超運転を可能にする方針を決め、改正法案を今国会に提出する。運転期間の規定は、経済産業省が所管する電気事業法で改めて定める。
規制委は、この方針に対応する新たな規制案について議論してきた。前回、8日の会合では4人の委員が改正方針に賛成したが、地質の専門家の石渡委員が「原則40年、最長60年」との規定が形式上は維持されることを踏まえ、「われわれが自ら進んで法改正する必要はない」などとして反対した。臨時会を開いて改めて議論することになった。
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この日、決定した新たな規制案は原発の運転開始から30年後を起点に10年以内ごとに劣化状況を審査、規制基準に適合していれば運転延長を認可する。
臨時会で、石渡委員は2020年に規制委が示した「原発の運転期間は利用政策側(推進側)が判断する事柄で、規制委は意見を言う立場にない」とする見解について、「当時の委員会で、しっかりと議論されたとは言えない」と指摘。当時は、電力業界団体からの意見に対して示した見解であり、今回のように、運転期間を延長する法改正を前提につくられた見解ではないと説明した。ほかの委員らは見解の妥当性を強調。議論は平行線となったため山中伸介委員長が、委員一人一人に賛否を確認した。
◆政府と歩調、使命を放棄した規制委
【解説】 原子力規制委員会が原発の60年超運転に向けた新規制案を多数決で決定したことは、反対の声に向き合わず性急に原発推進に踏み込む政府と歩調を合わせ、独立性を掲げる規制委の使命を放棄するものだ。
規制委の運転期間見直しを巡る新制度の検討は、異例ずくめだった。山中伸介委員長は、委員長就任からわずか2日後の9月末、経済産業省の担当者を呼び出して意見聴取するよう指示。規制当局自らが推進側に近づいた。
事務局は、その指示がある2カ月以上前の7月から非公開で経産省職員と情報交換を重ねていた。経産省が作成した資料については「作成者が公開の可否を判断するべきだ」として公開せず、規制委の内部資料も「恥ずかしい内容」との理由で黒塗りにした。推進側とのやりとりを明らかにする姿勢すら、まったく感じられない。
再稼働を目指す原発の中で最も古いのは、関西電力高浜1号機(福井県)の48年。60年を超えるまでに10年以上あり、急いで制度を変更する必要はない。それでも結論を急ぐのは、今国会での制度変更を目指す政府のスケジュールに足並みをそろえるためだ。東京電力福島第一原発事故の教訓で、推進と規制を分離するために発足した規制委の理念が消え去ろうとしている。(小野沢健太)