原発の廃炉などで生じる低レベル放射性廃棄物を巡り、米国が日本に対して国外処分を禁じた日本の法規制の見直しを求めていたことが毎日新聞の報道で明らかになった。実際、日本政府は米国との協議の後に廃炉で出る大型機器の一部に限って輸出できるように規制を見直す方針を固めたが、米国とのやり取りは一切公表されていない。政策の決定プロセスに問題はなかったのか。長崎大の鈴木達治郞教授(原子力行政)に聞いた。【岡大介】
米の働きかけで議論加速
――2020年4月、米エネルギー省幹部が電話で経済産業省幹部に米企業名を具体的に挙げて廃炉で使わなくなった大型機器の輸出実現を持ちかけ、その3カ月後に経産省側が電力業界に検討を要請して議論が本格化しました。
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◆(エネルギー省幹部が電話協議で言及した)米企業「エナジーソリューションズ」は廃炉の経験が豊富で、日本の電力業界との交流もある。極論を言えば、何もなくてもいずれはエナジー社への委託が議論されたかもしれない。しかし、米政府からの働きかけによって、それまで表立ってしづらかった海外への処理委託の議論加速に向けて背中を押した可能性は十分にある。
――国際条約では無責任な運用を防いだり安全を徹底したりする理由から放射性廃棄物は発生した国で処分することが原則です。一方、相手国の承認などがあれば輸出ができるという例外規定もあります。
◆例外規定はあっても、日本はこれまで原則を尊重し、一切の輸出を禁じてきた。一部だけでも輸出を認めるなら大きな方針転換だ。透明性の高い、詳細な議論が必要だ。当面自国で処理できなければ、次善の策として海外企業に委託すること自体は合理的という意見もあるだろう。だが、放射性廃棄物が国をまたいで移動すれば社会問題になりうる。政府には丁寧な説明をする責任がある。
米との協議「伏せては困る」
――経産省の有識者会合では米国から働きかけがあったこと自体が公表されていません。政府は「外交上のやり取りに関わる話なのでコメントできない」としています。
◆放射性廃棄物のやり取りこそ、「外交上の秘密」で伏せては困る。むしろ積極的に説明する義務がある。輸出規制の見直しを議論する上で重要な情報だ。米国側でも、政府や企業は売り込んでいても地元の環境団体などは受け入れに反対するかもしれない。透明性に欠け、政策決定のあり方として問題だ。
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――日本の原子力産業は黎明(れいめい)期から米国との関係が深いです。米国の都合で原発政策がゆがめられることはないでしょうか。
◆初期から米国の技術を使っているので、日本が米国に依存している部分もある。ただ、1990年代には成長した日本の原子炉メーカーが力を持つ時期もあった。一方的な主従関係ではないと思うが、いずれにせよ日米の「絆」は深い。今回明らかになった動きは、原子炉が建設から廃炉の段階に入っても、処分場を見つけられない日本側とビジネスの機会を求める米国側との間で「持ちつ持たれつ」の関係が続こうとしていることを示している。