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県によると、県内には農業用ため池が約4千カ所あり、うち底の土が基準値(1キロあたり8千ベクレル)を超えた浜通りと中通りの27市町村にある989池が除染対象となっている。昨年末までに576池で除染を終え、いったんすべて基準を下回った。
しかし、県内に大きな被害をもたらした2019年10月の台風19号の後、異変が相次いで判明した。富岡町は「線量が再び上がっている」と施工業者から連絡を受け、除染を終えた町内11池の線量を確認したところ、10池で再び基準値を超えていた。最も高い池で同2万ベクレル以上だったという。
町によると、11池はおもに水田用。10池で再度の除染を約5億円で発注し、4池で対策工事が終わったという。ため池の汚染土壌除去や現場保管費用には国の復興予算が充てられる。県内27市町村は14年度から20年度までに、約562億円を国に申請した。
線量の再上昇について、町産業振興課の担当者は「19年10月の台風19号と大雨で、放射能を含んだ大量の土砂が池に混入した可能性がある」と指摘し、汚染源とみられるため池周辺の森林の除染を国に要望している。ある業者は「山に近い池では雨が降れば線量が上がる。山を除染しないと、いたちごっこになる」という。しかし、国は森林除染を原則認めていないため、市町村側の主張と平行線をたどっている。
県によると、台風19号後に15市町村の81池を国が調べたところ、伊達市、川俣町、楢葉町、富岡町の4市町にある6池で線量が基準値以上に再上昇し、すでに4池で再除染を発注した。ただ、調査は一部に限られ、全体像は不明のままだ。
南相馬市では国の調査対象外だった5池で、基準値を超える線量の再上昇を市が確認し、再除染の対象となるか、国と協議中という。環境省除染チームは水に放射線の遮蔽(しゃへい)効果があることなどから「周辺環境への影響は極めて限定的」といい、住民生活には問題がないとの立場だ。
富岡町清水地区の「椿屋(つばきや)第1ため池」は除染で線量が下がったが、再び基準値を超えたため再除染している。猪狩強区長によると、原発事故前は約5ヘクタールの水田用に使われていたという。17年に避難解除されたが住民の帰還は事故前の約7分の1の41世帯にとどまるといい、猪狩区長は「早くまた水をためて農家が使えるようにしてほしい。火災が起きた時にも使え、安心にもつながる」と訴える。(関根慎一)