事故から10年、福島原発の3大問題
福島原発が抱えている課題を大別すると3つある。1つ目は廃炉の難しさ。構造的には原子炉内部は完全に破壊されているはずだが、正確な実態は今もわからない。メルトスルー(炉心の溶融貫通)した燃料デブリに近づけば近づくほど放射線量が高くなるので、遠隔ロボットやカメラを投入してもすぐに劣化して壊れてしまうのだ。
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処理水は太平洋沖合に放出すべし
2つ目の課題は増え続ける汚染処理水である。デブリ冷却のための注水に加えて、地下水や雨水が原子炉建屋に流れ込むことなどで発生する放射能汚染水は、今も毎日約140トンずつ増えている。これを多核種除去設備(ALPS。62種類の放射性物質を取り除けるが、トリチウムは除去できない)などで浄化処理した「処理水」を敷地内に増設してきたタンク約1000基に貯蔵してきたが、もはや置く場所がほとんどない。東京電力によれば2022年夏以降に保管容量は限界を迎えるという。
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3つ目は使用済み核燃料の問題
3つ目は使用済み核燃料の問題である。この2月末、福島第一原発3号機の使用済み燃料プールに残っていた核燃料556体の取り出しが完了した。メルトダウンを起こした1~3号機で搬出を完了したのは初めてのことだ。1~6号機の核燃料取り出しは、31年に完了する予定。しかし取り出しを終えたのは3号機と4号機だけで、1、2号機には依然として計1007体の使用済み核燃料が残っている。
使用済み核燃料を抱えているのは、福島原発だけではない。使用済み核燃料は、原子炉から取り出された後も熱を帯びているために数年単位の冷却が必要で、原子炉建屋の上部に設置された燃料プ―ルに冷却、貯蔵されている。日本中の原発には、これが大量に貯め込まれているのだ。
なぜこれほどの使用済み核燃料を保有しているかと言えば、政府・自民党がいざとなったら90日以内に核兵器を製造できるニュークリアレディ(核準備)国を目指していたからである。使用済み核燃料からプルトニウムなどを抽出して再利用するプルサーマル技術やウランの利用効率を飛躍的に高める高速増殖炉などの開発政策は、「資源の有効利用」を謳うたいながら核兵器の燃料であるプルトニウムを実は国内に蓄えるための口実でもあったのだ。日本は(長崎型の)核爆弾を1万発ぐらい造れるプルトニウムを保有していると言われている。
しかし1兆円超の巨費を投じてきた高速増殖炉もんじゅが廃炉になり、世界中で濃縮ウランが余っている状況下でプルサーマル計画は頓挫した。使用済み核燃料の再処理についても方向性が定まらないまま、各原発内の燃料プール貯蔵容量は限界に近づきつつある。
使用済み核燃料を再処理する際に出る高レベルの放射能廃棄物「核のゴミ」。この最終処分場について、北海道の寿都町と神恵内村が国の選定プロセスである文献調査(地質図や学術論文に基づく調査)に応募した。文献調査に最大20億円、第2段階の概要調査には最大70億円の交付金が国から出る。過疎や財政難に悩む自治体にとっては魅力的だが、最終処分場の誘致まで進むかどうかはわからない。
核のゴミをガラス固化体にして地下300メートル以深に埋める「地層処分」にするのが国の方針だが、最終処分場はいまだに決まっていない。ガラス固化の技術も未完成。フランスの技術を輸入してやっているが、ゼロから考え直さないと技術的に難しいのではないかと思う。
原子力人材不足の前に方針を決定せよ
核のゴミは国民の電力消費の結果として出たものだから国内で処分するしかない。しかし、この問題はスウェーデンとフィンランド以外、最終的な保管場所が決まった国がないほどの難問だ。バーゼル条約で産業廃棄物は「それが発生した国で処分すべき」と定められているため、国土の広大な国に処分を頼むことも難しい。
率直に言って、最終処分場は福島第一原発がある双葉町と大熊町にするしかないと、私は以前から考えている。原発用地は返すときには廃炉にして施設を解体し、更地に戻して返すことになっている。しかし爆発事故を起こした原子炉の敷地内などは、ほぼ永久に居住不可能と思われる。汚染状況からして更地に戻して返せるのは100年後のことだろうし、返してもらっても地元としても持て余すだけだ。
であれば、住民には手厚い補償をし、周辺も含めて国有地として国が買い上げるべきではないか。そこに最終処分場を造るのであれば比較的、合意も得やすいと思う。
逆の言い方をすれば、一進一退の苦しい廃炉作業を続けているのは原状回復して返す契約があるからで、国が買い上げてしまえばチェルノブイリのように缶詰にして永遠のセキュリティエリアにしまうという考え方もある。
震災、原発事故から10年経ってハッキリしたのは、原発問題にしても、今のコロナ問題にしても、日本政府がいかに無能で問題解決力がないかということ。原発問題は、(アメリカと同様に)事故以降に学生の「原子力離れ」が進んでいる現状を鑑みるに、早く手を打たなければ原子力人材が枯渇していき、半永久的に対処不能になってしまうことも危惧される。もう先送りは止めて、ここで国が意思決定しなければ、ただでさえ長期低落していく日本の歪みは修復不能なものになりかねない。