東日本大震災で起きた福島第1原子力発電所の事故当時、原子力安全委員長だった班目春樹氏(東京大学名誉教授)。原発事故時には政府に技術的助言を与える立場にあったが、的確な助言ができなかったとして非難を浴びた。2012年夏に退任して以来、表舞台に出ることはほとんどなかった同氏がこのほど日本経済新聞の取材に応じた。
その中で班目氏は、溶融核燃料が格納容器の外に飛び出る最悪の事態を一時想定したことを明らかにした。また現在の原子力防災の体制については、福島の教訓を十分にくみ取っていないとも指摘。首相の近くにいて事故対応にあたった班目氏の証言や分析は今後の原子力行政を考える上で参考になりうる。当時を振り返りながら、弁明も含めて重い口を開いた。
[…]
実は水素爆発の前の時点から、海江田万里・経産相(当時)が議長になって海水注入の問題点を総理応接室(官邸5階)で話し合っていた。塩が析出し腐食も問題になるので長期間は無理だが、いまは炉心を冷やすことを何より優先し海水を入れろと私は主張していた。首相が海水注入を止めるよう言うはずはないと思う。海水注入中断の問題は、国会事故調査委員会などが指摘するように東電の武黒一郎フェローの勝手な判断が介在していたように思う。いずれにしても、吉田昌郎所長(当時)の判断で注入の中断はなかった」
[…]
――緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の情報は住民の避難に活用されなかったが、本当に使えなかったのか。「不確実性が大きく、今回のような過酷事故の際には使えない。3~5キロのPAZの住民はまずとりあえず避難する。次に実測値をもとにどちらの方向がより安全かを判断して避難の範囲や方向を見直すのだが16、17日時点では実測値が少なく、それだけでこちらがいいと言えない。(実測データから)逆算して汚染状況の地図を作製したのが23日だ」
「そのデータをみる限り、小児甲状腺等価線量で100ミリシーベルトを超え避難基準に達する恐れがある地域があるので、23日の朝に久住静代・原子力安全委員(当時)と一緒に、官邸に一報を入れに行った。枝野幸男・官房長官(当時)に会い説明した。昼夜戸外にいると仮定した厳しめの見積もりだと説明したところ、『それならただちに避難ではなく計画的に進めていくから』と言われた。その日の夜に記者会見してデータは公表した」
もっと読む。(無料の会員登録が必要です)