- 2022/11/15
- 19:30
原発事故後の福島県内の被曝リスクや行政の怠慢を正面から問う「子ども脱被ばく裁判」の控訴審。第5回口頭弁論が14日午後、仙台高裁101号法廷(石栗正子裁判長)で行われ、石栗裁判長は控訴人(一審原告)から出されていた5人への証人尋問申請をすべて却下した。高裁は福島県の内堀雅雄知事など判断権者の話を聴かないまま、SPEEDI情報隠蔽や学校再開についての「年20mSv基準」など、国や福島県の原発事故対応について判断する。次回期日は3月27日15時。2月1日には、審理が分離され結審した行政訴訟(子ども人権裁判)についての判決が言い渡される。
【「立証趣旨は理解しているが…」】
石栗裁判長が全員却下を伝えると、「ええええええ」と傍聴席がどよめいた。
5人全員とはいかないまでも、何人かの尋問は実現するだろう。誰もがそう考えていた。開廷前の事前集会でも、井戸謙一弁護士(弁護団長)は「何人かの採用はあるはず」と話していた。しかし、石栗裁判長は言葉遣いこそていねいだったが、控訴人側からの申請を一切認めなかった。
「結論を申し上げます。立証趣旨としてお書きになっているところについては裁判所としては理解しておりますけれども、この5人の方の証拠調べ(証人尋問)が必要であるというふうには考えておりませんので、いずれも採用しないことと致します」
すぐに井戸弁護士が立ちあがった。
「裁判所が必要ないという考えなのであれば、前回わざわざ審理を分離しなくても良かったのではないか。分離してわざわざ今日の期日を設けていただいたということは、何人になるかは分からないけれども、採用していただけるというお考えなのだろうと期待していた。前回期日から今日までに考えが変わられたのか?」
石栗裁判長は「そういうことではありません」と否定した。
「前回期日も、行政事件については十分ご主張が整っているとは思わなかったが、時間的にあの時点で審理を終結しなければ年度内に判決を言い渡すことが難しい状況だったので分離した…あの時点で証拠調べについて何らかの考えを持っていて、それが変わったということはございません」
古川健三弁護士も納得がいかないという様子で立ち上がった。
「すいません、もう一度不採用の理由を説明していただけないでしょうか」
しかし、石栗裁判長は同じ言葉を繰り返すばかりだった。
「控訴人らの立証趣旨について、お書きになっているところは理解しておりますが、立証趣旨との関係で、この方々の人証調べが必要であるというふうには考えていないということです」
古川弁護士は「私どもとしては少なくとも福島県の内堀氏か荒竹氏かは採用していただけると考えていたので非常に残念」と述べたが、裁判所の判断が覆るはずもなかった。
[…]
※弁論の併合と分離について
「子ども脱被ばく裁判」はこれまで、「行政訴訟」(通称・子ども人権裁判)と「国家賠償請求訴訟」(通称・親子裁判)の2つの訴訟を併合し、同時進行で進められてきた。
「行政訴訟」は、福島県内の公立の小・中学生である子どもたち(原告)が、福島県内の市や町(被告)に対し、被曝という点において安全な環境の施設で教育を実施するよう求めた。
「国家賠償請求訴訟」は、3・11当時、福島県内に居住していた親子が原告。国と福島県(被告)の『5つの不合理な施策』(①SPEEDIやモニタリング結果など必要な情報を隠蔽した②安定ヨウ素剤を子どもたちに服用させなかった③それまでの一般公衆の被曝限度の20倍である年20mSv基準で学校を再開した④事故当初は子どもたちを集団避難させるべきだったのに、させなかった⑤山下俊一氏などを使って嘘の安全宣伝をした)によって子どもたちに無用な被曝をさせ、精神的苦痛を与えられたとして、損害賠償(1人10万円)を求めている。
しかし、行政訴訟は子どもたちが中学校を卒業してしまうと原告資格を失うため徐々に原告が減り、来年3月にはついに原告がゼロになる事態を迎える。そこで、控訴人(一審原告)側は仙台高裁に弁論の分離を申請。石栗裁判長は前回9月の期日で分離を認めたうえで行政訴訟を結審。判決を2月1日に言い渡すとことを決めた。一方の「国家賠償請求訴訟」は審理が継続しており、今回の人証申請は「国家賠償請求訴訟」に関するものだった。
2つの訴訟の違いや争点などについては2021年2月20日号で詳報している。