岡田広行
自民党総裁選でにわかに注目を集めている核燃料サイクル政策の是非。核物質問題の世界的権威に聞いた。
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核燃料再処理やプルトニウムなど核物質の問題に詳しいプリンストン大学のフランク・フォンヒッペル名誉教授に、日本の核燃料サイクル政策の是非についてインタビューした(書面インタビュー。インタビューに際しては、インターネット情報サイト「核情報」主宰者の田窪雅文氏の協力を得た)。
河野氏の「再検討発言」は大歓迎
――自民党総裁選で河野氏が核燃料サイクル政策の見直しを訴えています。六ヶ所再処理工場(青森県六ヶ所村)の稼働を前に、与党の有力者からこうした発言が出てきたことについてどう受け止めていますか。
私は、この問題について河野氏と話をしたことがある。河野氏が日本の核燃料サイクル政策について再検討すべきだと述べていることは大歓迎だ。
――河野氏は新著『日本を前に進める』の中で、「高速増殖炉の開発が頓挫し、核燃料サイクルは行き詰まっている」「使用済み核燃料を再処理して余分なプルトニウムを取り出す必要はない」「再処理で取り出したプルトニウムは、核拡散の危険性を高める」などと述べています。これらの主張の当否についてどのようにお考えですか。
これらすべての点において河野氏に同意する。
――世界における再処理の現状は。
今日、使用済み核燃料の再処理を実施している国は、6カ国まで減っている。中国、フランス、インド、日本、ロシア、そしてイギリスだ。
イギリスは2022年に再処理の完全中止を予定している。再処理ビジネスの顧客である国内外の電力会社が契約更新を拒否したためだ。中国、インド、ロシアは、高速増殖炉計画に必要なプルトニウムを生産するために再処理をしていると説明している。
しかし、ロシアの原子力複合企業ロスアトムは、同社の3基目の高速増殖原型炉の運転開始を早くても2030年代まで延期するとしている。中国とインドは、核兵器用にプルトニウムを生産すると同時に、発電もする原子炉として原型炉を建設しているとみられる。
フランスと日本は、再処理で取り出したプルトニウムをウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料に加工し、通常の原発(軽水炉)で利用している。日本でもフランスでも再処理コストを含めると、MOX燃料の製造コストは通常の原発で使う低濃縮ウラン燃料の10倍レベルとなると推定されている。
(IPFM)」の共同議長などを歴任。カーター政権以来、アメリカの政権や議会に対して核セキュリティー問題に関して助言。1993年~1994年、ホワイトハウス科学・技術政策局国家安全保障担当次官として核脅威削減のための米ロ共同イニシアティブ策定に寄与。2021年10月に共著『プルトニウムー原子力の夢の燃料が悪夢に』(邦訳版)を出版予定(写真は2016年撮影、撮影:尾形文繁)
インドの核実験と再処理政策の見直し
――アメリカは最初は再処理推進の先頭に立っていましたね。
再処理のもともとの目的は、通常の原発の使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して「増殖炉」の燃料にすることにあった。プルトニウムを燃料として使いながら、使った以上のプルトニウムを生産するというものだ。
天然ウランの中に豊富に含まれている連鎖反応をしないウラン238に中性子を当てて核変換させ、プルトニウムにするための原子炉だ。背景にあったのは、連鎖反応を起こすウラン235は天然ウランの中に0.7%しか含まれておらず、これを利用するだけでは原子力発電は維持できないという資源制約上の心配だ。
――フォンヒッペルさんはアメリカが1970年代に再処理政策を取りやめる際の政策決定に関わりました。
私は、1977年にカーター政権がアメリカの核燃料政策について再検討した際、アドバイザーの1人だった。当時のアメリカの政策は現在の日本と同じだった。カーター大統領は、再処理には経済的合理性がないし、プルトニウムは核兵器に使えるため、再処理でプルトニウムを取り出すことは他の国々にとって危険な手本となってしまうとの結論に達した。[…]