[仙台 8日 ロイター] -冬場の最低気温が氷点下にもなる未明の仙台駅。凍てつく寒さをこらえながら、段ボールにしがみつくようにして眠る路上生活者たちを、ほぼ毎日のように訪れていた人物がいる。
元プロレスの興行師だったというこの男性は生活困窮者を支援するケースワーカーではない。放射能汚染が続く福島での除染作業などにホームレスを送り込む手配師のひとりだ。
「俺のような手配師は誰でもここに来て、作業ができそうなやつを探してきたんだ」。
がっしりした肩を揺すり、寝込んでいるホームレスの間を歩きながら、佐々誠治(67)はロイター記者にそう話した。除染やがれき処理な どに作業員を送り込む手数料として、佐々が受け取っていた謝礼は作業員1人当たりおよそ1万円。始発電車もまだ動いていない夜明けの仙台駅は、実はそうし た「ホームレス調達」の拠点と化していた。
福島地域の放射能汚染によって避難生活を強いられている被災者は14万人にも及ぶ。彼らが帰還するには、徹底した除染や復興推進が絶対 条件だ。しかし、ロイターによる政府資料の分析や多数の関係者への取材で明らかになったのは、国から膨大な事業費が流れこむ除染や復興事業の一部が、作業 員不足につけ込んだ不法行為の温床となり、暴力団関係者の資金源にもなっている、という実態だった。
<暴力団関係者への依存>
ホームレス作業員の手配師として佐々が関与していた事業は、福島市の道路除染を行うために発注された約1億4000万円の契約の一部だった、と佐々を職業安定法違反容疑で逮捕した捜査当局者は話す。その主契約企業は大手ゼネコンの大林組(1802.T: 株価, ニュース, レポート)。佐々が仙台駅で調達したホームレスたちは大林組の下請けに連なっている業者4社を経由して、福島での除染作業などに投入された。
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これとは別に、50代のあるホームレス作業員は、周東興業で1カ月働いたのに1000円ほどの支払いしかなかったという。ロイターが入 手したこの作業員の給与明細によると、食費、住居、洗濯費用などとして1カ月約15万円が引かれたため、彼には昨年8月末時点での取り分は1000円程度 しかなかった。
金田はこの男性が会社で働いていた事は認めつつも、待遇は正当だったと主張する。彼女によれば、周東興業は食費として1日3500円は 差し引くものの、少なくとも8000円の日当を払っていたという。金田によれば、ある作業員は福島で仕事を始める前に200万円を前借りし、その負債は 減ったものの、昨年末の休暇のため、さらに20万円の借金をしたという。「あの人は借金を返すことはできないでしょう」と彼女は言う。
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「手配師にとって、ホームレスは簡単に狙える標的だよ」と西山は言う。「身の回り品をすべて持って、大きな荷物と一緒に動き回っていれ ば、すぐにホームレスだとわかる。手配師連中は、ホームレスを見つけると、職をさがしているのか、腹は減っていないか、と聞いてくる。もし、腹を空かして いるとわかれば、彼らが仕事をくれるんだ」。
<実態不明な除染業者も>
福島の除染作業には今も多額の税金が継続的に投入されている。しかし、それがどう使われているのか、実態は不透明のままだ。大きな理由 の1つは、大手企業を頂点にして広がる何層もの下請け構造の存在にある。複雑な請負契約を結びながら、末端の零細業者もふくめて、除染事業には膨大な数の 企業が関わっている。
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ロイターの調査では、環境省が業務を発注している企業のうち、5社については総務省での法人登録が確認できず、公表されている電話番号 もウェブサイトもないうえ、所有者を示す基本的な企業情報も見つからなかった。信用情報機関である帝国データバンクにも、これらの企業の実態を示す記録は 存在していない。
「一般企業として稼動していたのか、休眠会社なのか。その代表や取締役の経歴にも注目すべきだ」と帝国データバンク東京支社情報部の阿部成伸は企業実態の慎重な調査の必要性を指摘する。
だが、除染作業に関与している無数の中小、零細企業がどのように人材を調達し、業務の安全性や安定性をどう確保しているか、その監視や責任体制が徹底しているとは言いがたいのが現状だ。
全文は特別リポート:福島除染に巣喰う「ホームレス取引」と反社勢力
英語版はSpecial Report: Japan’s homeless recruited for murky Fukushima clean-up via Reuters