【福島原発かながわ訴訟】「もっと注意喚起してくれたら…」「子どもたちを被曝させてしまったかもしれない」女性原告が意見陳述~横浜地裁で第2陣の第3回口頭弁論 via 民の声新聞

2011年3月の福島第一原発事故で福島県から神奈川県に避難した人々が、事故の原因と責任の所在を明らかにし完全賠償を求めて起こした「福島原発かながわ訴訟」。2021年9月3日に提訴した第2陣(5世帯16人)の第3回口頭弁論が12日午前、横浜地裁101号法廷(高取真理子裁判長)で行われた。幼い息子とともに福島県福島市から避難した50代女性が意見陳述。国や自治体からの注意喚起がほとんどなく「子どもたちに被曝をさせてしまったかもしれない。申し訳なさを持ち続けています」などと述べた。次回期日は4月20日14時。原告の意見陳述が予定されている。

【初期被曝への後悔】
 「家族それぞれ、充実した毎日を送っていましたが、その生活は原発事故で一変してしまいました」
 女性は生まれ育った福島市で、夫と高校生の娘、幼稚園に通う息子と4人暮らし。娘は高校のダンス部に所属し、息子は幼稚園に隣接する山で伸び伸びと遊んでいた。女性はいずれ店を引き継ぐことを視野に入れながら、実家の美容室で働いていた。2011年3月の震災・原発事故が起きるまでは…。そこに降り注いだのが、大量の放射性物質だった。
 「放射線に関する知識はなかったので何をしたら危険なのかが分からず、事故後の行動について後悔することとなりました」
 被曝リスクに関する情報は乏しく、福島県も福島市も注意喚起をするどころか〝安全〟を強調するばかり。女性は当時の行動で子どもたちに無用な被曝をさせてしまったのではないかと悔やんでいるという。
 「事故後も幼稚園に通常通り通園していました。しかし、4月に入ってから、幼稚園も、幼稚園の隣の山も線量が高いことが分かり、山の中は立入禁止となりました。山は竹林なので除染もできないということでした。また、娘の通っていた高校も周囲の施設も、線量が高いことが分かりました」
 生活用水を汲んでいた場所はホットスポットだった。放射性物質を室内に入れないため換気扇を回さない、洗濯物を汚染させないよう外干ししない、など被曝リスクを避けるための情報が届いたときには、既に初期被曝をしてしまっていた。福島第一原発で爆発事故が起きた直後になぜ、注意喚起をしてくれなかったのか。「特に子どもたちには、事故直後に危険なことをさせてしまったと、今でも申し訳なさと不安な気持ちでいっぱいです」。
 夏でも長袖にマスクをして生活するような場所に住み続けていいのだろうか、という想いが日増しに強くなった。そして原発事故発生から半年後の2011年9月、女性は決断した。

【「誰にも相談できなかった」】
  女性は幼い息子を連れて福島市を離れた。娘は受験を控えていることもあり、2人だけで関東に向かった。「しかし、母と息子2人だけでの避難生活は本当に辛いものでした」。
 内気な息子は、知らない土地での新しい生活になじめず、精神的に不安定な日々が続いた。進学した小学校で〝避難者いじめ〟に遭わなかったのはせめてもの救いだった。
 女性も、徐々に不安定になった。
 「頼れる人が1人もいない、息子を守れるのは私1人。張り詰めた気持ちでいるうちに、涙が止まらないなど不安定な日々が続きました。福島県外に避難したことで、実家の美容室を継ぐことも叶わなくなってしまいましたし、父が亡くなった際には最後のお別れもできませんでした」
 娘は進学先の大学で「放射能が移る」、「近寄るな」などの心ない言葉を浴びたことがあったという。なぜ、こんな想いをさせられなければならないのか。

[…]

【「区域外避難者への賠償低すぎ」】
 法廷では、山﨑健一弁護士も「原発事故により原告らが被った精神的損害」について意見陳述した。
 「原子力損害賠償審査会(原賠審)の中間指針等においては、政府による避難指示等対象区域内からの避難者に対しては、原則として1人当たり月額10万円、区域外からの避難者に対しては、子ども及び妊婦について1人当たり40万円、その他の者は1人8万円を目安として賠償基準を提示している。しかし、そもそも、政府による避難指示等は科学的な根拠に基づくものではなく、避難による社会的混乱等を考慮した政策的な判断に過ぎなかったのであり、その対象区域によって賠償に水準に大きな格差を認めることに合理性は認められない。とりわけ、対象区域外からの避難者に対する賠償額は、その被害実態に照らして余りに低額に過ぎ、著しく不合理というほかない」
 昨年12月に公表された原賠審の「第五次追補」については「約9年振りの指針の見直しであり、本件原発事故の被害救済の必要性からすれば、遅きに失したものと言わざるを得ないが、同種集団訴訟で認められた『避難を余儀なくされた慰謝料』、『ふるさと喪失・変容慰謝料』等を新たに中間指針等に取り込むものであり、被害の救済範囲を拡げた点において大きな前進」と評価。一方で問題点も指摘した。
 「目安として定められた賠償額は、本件原発による被害の深刻さに照らせばいまだ不十分。また、政府による避難指示等対象区域間において不当に大きな賠償格差が残されたままであることも問題。特に、自主的避難等対象区域に関する賠償額については、現時点で十分な判決例の集積がないこともあってか今回の見直しではほとんど踏み込んだ検討がされておらず、今後の大きな課題だ」
 そのうえで、裁判所には次のように求めた。
 「中間指針等には多くの課題が残されており、その適正な見直しがなされるためにも、本件原発事故の深刻な被害について個別具体的に検討した上での適正な司法判断が必要」
 「本件訴訟においても、個別具体的な事情を踏まえて原告らの被害実態に見合った適正な賠償額を評価する必要がある。他方で『第五次追補』で示された対象区域には該当しない各原告に対しても、居住区域だけを理由に各賠償の対象とならないとすることは許されず、やはり個別具体的な事情を十分に考慮して被害実態に見合った適正な賠償を認めるべき」

全文

This entry was posted in *日本語 and tagged , . Bookmark the permalink.

Leave a Reply