「これ以上待てない」 提訴10年半、「塩漬け裁判は全国に」 泊原発訴訟 via 朝日新聞

 津波に対して安全性を欠き、運転によって周辺住民の生命や身体に危険を及ぼすおそれがある――。北海道電力泊原発(北海道泊村)の運転差し止め訴訟で、札幌地裁は31日、運転をしてはならないと命じた。提訴から10年半余り。原告の周辺住民らからは安堵(あんど)の声が広がった。▼1面参照

 「極めてわかりやすく、順当な判決。危険性を理由に、再稼働を止めたかった我々の思いに寄り添ってくれた」
 判決後の会見で、原告弁護団長の市川守弘弁護士はそう評価した。
 原告団は東日本大震災後の2011年11月に提訴。裁判が長期化した一因は、原子力規制委員会の審査をにらみながら、裁判では自らの主張を明らかにしない北電側の姿勢にあった。谷口哲也裁判長は今年1月、「審理が熟した」と弁論を終結させ、この日の判決で「原発の運転によって、周辺住民の生命・身体など人格権を侵害する恐れがある」と断じた。

市川氏は「これ以上待てない、と裁判所が規制委の代わりに判断してくれた」と指摘。「規制委の審査を理由に、裁判所が先に進めようとしない『塩漬け裁判』が全国にあるが、安全性が立証できなければ結審して判決を出してもいい」と述べ、他の訴訟に与える影響は大きいとした。
 会見には約30人の関係者らが出席。原告団を牽引(けんいん)してきた小野有五・北海道大学名誉教授(自然地理学)は「1200人の仲間がいて10年間がんばってこられた。裁判官が厳しく指摘してくれた」と笑顔を見せた一方、北電側の姿勢を改めて批判。「北電が規制委の方ばかり向いていたということが問題。規制委に対しても証拠の出し方が遅かった。北電は原発のような危険なものを扱う能力がそもそもないんじゃないかとさえ思う」と話した。
 原告団長の斉藤武一さん(69)=北海道岩内町=は「団長として道民として、地元の人間として喜びたい。差し止めは、どんどん再稼働が遅れるということ。原発のない北海道を目指す第一歩が、(判決があった)午後3時に記された」と声を弾ませた。(角拓哉、石垣明真、日浦統)

■各地の原発訴訟「力づけられる」

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中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)の廃炉などを求めた訴訟の弁護団の青山雅幸弁護士は、札幌地裁が「審理を継続することは相当でない」と判断したことについて「司法の役割を果たした画期的な判決だ」と評価した。
 訴訟は2011年7月の提訴から10年以上、静岡地裁での審理が続く。17年に原告側が提出した「原発敷地内に活断層がある」とする書面に対し、中部電側は今も反論の書面を出していない。20年12月の弁論では裁判長が「かなりの間、被告が書面の提出をしていないことは遺憾」と述べたが、議論が尽くされておらず、審理を打ち切る段階にないとした。青山弁護士は「静岡地裁は札幌地裁の姿勢を見習うべきだ」と指摘する。
 12年に提訴した北陸電力志賀原発(石川県志賀町)の運転差し止め訴訟も、審理が続いている。断層の活動性をめぐる原子力規制委員会の審査が長引き、金沢地裁はその結果を待つ方針を採っているからだ。原告団長の北野進さん(62)は札幌地裁判決を「本来の司法の在り方を示した素晴らしい判決。私たちも勇気づけられる」と歓迎した。
 関西電力大飯原発(福井県おおい町)では、福井地裁が14年に運転差し止めを命じる判決を出したが名古屋高裁金沢支部の控訴審で逆転敗訴した。原告団代表の中嶌哲演(なかじまてつえん)さん(80)は「少しずつだが住民の命を大事にする判決が積み上がってきた。自分たちも力づけられる」と喜んだ。

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(小山裕一、小島弘之、佐藤常敬)

■大飯原発審理にも参加 谷口裁判長
 泊原発の運転差し止めを命じた谷口哲也裁判長(50)は、1998年、大阪地裁判事補に任官。福岡地家裁小倉支部、京都地家裁勤務などを経て、司法研修所の教官を務めたこともある。大阪地裁判事を経て20年から札幌地裁部総括判事を務めている。
 大阪地裁では19年3月、関西電力大飯原発3、4号機の運転差し止めの仮処分申し立ての審理に参加(申し立ては却下)。札幌地裁では今年1月、北海道白老町で乗客13人が重軽傷を負ったバス事故で運転手を違法に起訴したとして、国に賠償を命じる判決を出している。

■「速やかに控訴」 北海道電
 北海道電力は31日、「当社の主張をご理解いただけず誠に遺憾であり、到底承服できないことから、速やかに控訴に係る手続きを行います」とのコメントを出した。

 ■津波対策が不十分、明快
 原発訴訟に詳しい元立命館大法科大学院教授の斎藤浩弁護士の話 極めて単純明快な判決だ。津波対策が不十分として原告らの人格権侵害のおそれを認め、その他の数ある争点は「検討するまでもない」とした。泊原発の防潮堤は完成時期が見通せないどころか、構造も決まっていない。十分な防潮堤が現状ないという判決に対し、誰も文句が言えない。これほど被告側に不利な争点は、過去の原発訴訟ではなかった。
 近年は毎年のように、司法が原発の安全性に異議を唱える判決を出している。一方、政府は脱炭素の推進のために原発の再稼働を重視している。原発再稼働の声が強まっている中での、勇気ある判決とも言えるだろう。

 ■規制委の審査中、違和感
 電力会社の経営に詳しい国際大学の橘川武郎教授(エネルギー政策)の話 原子力規制委員会で審査中の原発に裁判所が判断を下すのは違和感がある。これまでの原発訴訟と同様に控訴審で判決が覆る可能性が高く、再稼働への影響はあまりないだろう。
 ただ、北電は防潮堤について説明の仕方があったのではないか。北電は規制委の審査対応でも大手電力のなかで進め方が拙劣で、審査が長期化した。

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