「私は福島を知ってしまった。だから通い続ける」~福島原発訴訟・弁護団事務局長の思いvia 論座

「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟が問いかけるもの

馬奈木厳太郎 弁護士 2020年10月13日

「東電による不誠実な報告を唯々諾々と受け入れることとなったものであり、規制当局に期待される役割を果たさなかったものといわざるを得ない」

 「一般に営利企業たる原子力事業においては、利益を重視するあまり、ややもすれば費用を要する安全対策を怠る方向に向かいがちな傾向が生じることは否定できないから、規制当局としては、原子力事業者にそうした傾向が生じていないかを不断に注視しつつ、安全寄りの指導・規制をしていくことが期待されていたというべきであって、上記対応は、規制当局の姿勢としては不十分なものであったとの批判を免れない」

 仙台高裁の法廷に、裁判長の声が響きます。

 判決言渡しが終わると、期せずして廷内に拍手が沸き起こりました。門前では、「勝訴」「再び国を断罪」「被害救済前進」の3つの旗が、歓声と大きな拍手のなか高らかに掲げられました。

[…]

 私たちの裁判の目的は明確です。3つのキーワードで表しています。

1つが、”原状回復”です。交通事故で家族を失ったとき、残された家族が最初に思うことは、決して「金を払え」ではないはずです。「家族を返せ」と思うはずです。現実にはそれができないので、「できないのなら、せめてお金を払え」、こういう順番のはずです。

 今回の裁判も同じです。まず、「元に戻せ、原状回復しろ」が一番目の要求になります。ただ、注意していただきたいのは、ここでいう”原状回復”は、たとえば、「2011年3月10日に戻せ」ではないということです。

 3月10日であれば、確かに事故は起きていません。しかし、事故の原因となった原発は存在しています。私たちは、これでは足りない、被害を生み出すことがない状態にせよと求めています。ですから、私たちのいう”原状回復”は、”放射能もない、原発もない地域を創ろう!”という意味でとらえられる必要があります。広い射程をもって”原状回復”という言葉を使っているのです。

 2つめは、被害の”全体救済”です。いま約4500名の原告で裁判をしています。ここで強調したいのは、これらの原告は、「自分たちだけを救済してくれ」と言っているわけではないということです。

 一般的に裁判というと、貸した金を返せとか、家を明け渡せといった請求となり、訴えた人の請求が認められるか否かだけが問題となります。ところが、この原告たちは、そういった話はしていません。「自分たちだけを救ってくれ」という話を超えた主張をしています。この裁判を通じて何を求めているのか、それは個別救済ではなく、”全体救済”を求めているのです。

 具体的にいうと、「あらゆる被害者の被害を救済せよ」、「被害者のいる限り救済せよ」ということを求めています。これは判決をテコとして、全体救済のための制度化を要求しているということです。

 つまり、今回の事故について国に責任があると認めさせることによって、国には被害を救済する義務がある、いわば償いをしなければならないことが明確になります。

 では、どんな形で償いをさせるのか、それは様々な形で被害が出ているので、被害に見合った形で、被害に即した形でやるべきだ、生活再建や健康被害、除染、賠償など色々な問題があります。そうしたことに対する制度を作らせることを目的とした裁判ということです。

 したがって、この原告の方々たちは、様々な事情から原告になれなかった人たちのため、今後被害が生ずることになるかもしれない人たちためにも、自分たちは頑張ると決意した方たちなのです。

では、どんな形で償いをさせるのか、それは様々な形で被害が出ているので、被害に見合った形で、被害に即した形でやるべきだ、生活再建や健康被害、除染、賠償など色々な問題があります。そうしたことに対する制度を作らせることを目的とした裁判ということです。

 3つめが、”脱原発”です。今回の事故を受けて、被害根絶を真面目に追求しようとすると、エネルギーとしての原子力をどうするのかということに行きつかざるをえません。

 「被害者をもう生みださないでほしい」と原告の方に限らず、みなさん仰います。「私たちのような被害者は自分たちで最後にしてほしい」とも仰います。これは、もう原発による事故、そうした被害者を生み出さないでほしいということです。

 そうであるならば、どうそれを目指していくのか。お金の話だけでは問題は絶対に解決されません。先ほどの”原状回復”を考えないといけないし、もっと突きつめていくと原発をどうするのかということまで行くことになります。 私たちが”脱原発”を言っているのは偶然ではないのです。

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