北海道寿都町(すっつちょう)は、原発の使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場の選定に向け、第1段階に当たる「文献調査」への応募を検討していることを明らかにした。「トイレのないマンション」。核のごみの最終処分場が決まらないまま原発が運転されている状況は、そう呼ばれている。寿都町の対応は、問題解決の第一歩になるのか。
「トイレのないマンション」と呼ばれて
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政府は、原発で使われた核燃料を繰り返し再利用する「核燃料サイクル政策」を目指している。使い終わった核燃料から再利用できるプルトニウムなどを取り出す一方、残った燃えかすなどを含んだ放射性廃液をガラスで固める。この円筒状のガラス固化体(直径約40センチ、高さ約1・3メートル)が強い放射線を放つことから高レベルの放射性廃棄物、つまり核のごみになる。
核のごみは熱を持っているため、専用の容器に入れ30~50年は空気で冷やし続けることになる。放射線の強さが安全なレベルに下がるには10万年以上かかるにもかかわらず、最終処分場の当てはないままだったので「トイレがない」と表現された。それが、核燃料サイクル政策が行き詰まる要因の一つになる。
電力各社はこれまで使用済み核燃料を再利用するため、英国やフランスの企業にプルトニウムなどを取り出してもらい、その際に生じた核のごみは持ち帰っていた。行き場のない核のごみは、日本原燃の高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター(青森県六ケ所村)などに計約2500本が保管されている。
核のごみは、これだけではない。経済産業省によると、各原発に貯蔵中の使用済み核燃料は計約1万9000トン。これを全て再利用したとすると、さらに約2万6000本の核のごみが生じ、原発の再稼働が進めばもっと増える。
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これを受け、原子力発電環境整備機構(NUMO、ニューモ)は02年、建設に向けた調査を受け入れる自治体の公募を始めたが、文献調査まで進んだ市町村はなかった。このため、政府は17年7月に活断層など地質の状況に応じて最終処分場の地質学的な適否を推定した全国地図(科学的特性マップ)を公表。各地で意見交換会や説明会を100回以上開き、文献調査の応募を呼びかけていた。
そんな中で科学的特性マップの公表から3年が過ぎ、文献調査に向け初めて手を挙げたのが寿都町だった。13日の北海道新聞の報道で表面化した。マップで「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高く(核のごみを受け入れるための)輸送の面でも好ましい地域」と評価されていた約900自治体の一つだった。
政府が見込んでいる最終処分場は地下に核のごみ4万本以上を埋める。地中に整備される施設の広さは、約6~10平方キロ(東京ドーム128~214個分に相当)。坑道の総延長は約200キロになる。放射線が強い状態にある1000年以上は金属製の容器に格納する。総事業費を試算したところ3・9兆円に上った。
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ハードルは地元の理解と道条例
「交付金は2年間で最大20億円。これは大きい」。寿都町の片岡春雄町長は13日、時折笑みを浮かべながら毎日新聞の取材にこう語った。「新型コロナウイルスの影響で漁業、水産加工の売り上げが落ち込んだ」と話し、町の財政立て直しにつながると強調した。漁業を主な産業とする町は人口約2900人(3月末)の過疎地で、高齢化率は約40・5%。片岡町長は「町の財政は10年後を見据えると資金が底を突く。人口減が進む中、文献調査だけでお金がもらえるなら」と応募検討の理由を語った。
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条例は、道が2000年10月に制定した都道府県唯一の「核抜き条例」。核燃料サイクル開発機構(現・日本原子力研究開発機構)が北海道幌延町(ほろのべちょう)に、核のごみの地層処分の技術的検討を行う「幌延深地層研究センター」を設置する際、核のごみは「受け入れ難い」と明記し、制定された。しかし、片岡町長は強気だ。「条例は拘束力があるわけではなく、実効性がない」として、道に国との協議を期待する。
ただ、道内の世論が容認に傾く可能性は低い。幌延町に隣接する豊富町(とよとみちょう)の酪農家で、道内への原子力施設の誘致に反対してきた久世薫嗣(くせしげつぐ)さん(76)は「原発マネーは一度受け入れると抜け出せない。酪農や漁業など基幹産業を整え、町づくりをするのが町政の役割だ」と批判し、北海道全域で反対活動を展開する考えだ。
高知県東洋町は07年、文献調査に手を挙げるも猛烈な反対運動で撤回した。海外でも最終処分場の選定は難航しており、決まっているのはフィンランドとスウェーデンだけ。それだけに、経産省の担当者は「東洋町の時は、十分な理解を得ないまま、手続きが先行してしまった。同じことは繰り返したくない」と話す。
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【山下智恵、高橋由衣】
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