被ばく影響 世界に伝える 旧警戒区域で生きる牛たち via 東京新聞

 東京電力福島第一原発の旧警戒区域で被ばくしながら生き続けている牛がいる。家畜としての価値はなくなったが、「殺すには忍びない」と飼育農家の 人々が、避難先から通って世話を続けてきた。そんな牛たちを研究材料として活用するプロジェクトが進行中だ。低レベルの放射線が長期的に動物に与える影響 を調べたデータは世界に類がないという。研究は、人災の犠牲になった牛に生きる役割を与える道でもある。研究グループに同行して、旧警戒区域に入った。

 研究グループは「原発事故被災動物と環境研究会」。岩手大、北里大、東北大などの研究者に獣医師などが加わって二〇一二年九月に設立された。

 今月十七日早朝、大熊町の牧場に向かった。約五ヘクタールの牧場は新緑に包まれていた。柵の中で五十頭の黒毛和牛が草をはんでいる。その向こうに屋根瓦が崩落した無人の家屋群が立っている。

 福島第一原発から五・六キロ。空間線量は毎時一〇マイクロシーベルト。なぜ、こんな場所に今も牧場があるのか。

一一年三月十二日、牧場主の池田光秀さん(53)、美喜子さん(57)夫妻は、「原発が危ない」と聞かされて避難した。牛には「これが最後だよ」とエサをやって泣いた。

 ところが半年後、規制が緩くなり一時帰宅すると、牛たちは生きていた。自力で柵を破り、野草を食べていたのだという。最初は警戒したが、エサをや ると事故前のように寄ってきた。「かわいいもんさ」と池田さん。以来、一時帰宅の頻度が増え、今は毎日、避難先の広野町から夫婦でやってくる。

(略)

池田さんの牛は繁殖も販売も禁止されている。しかも農林水産省が決めた規則で、被ばくした牧草はエサとして与えられない。年間一千万円にも及ぶエサ代がのしかかる。休業補償や賠償があるとはいえ火の車だ。

 同じような農家は、今も旧警戒区域の中に十軒ほどはあり、牛は五百六十頭もいる。

池田牧場では、岡田啓司・岩手大准教授らを中心に牛のデータ採集が行われた。麻酔をかけた上で、皮膚の一部を切り取った。事故後、牛の体表に白斑が出る現 象があり、放射線との関連を調べるために病理検査をする。また、血液や毛なども採取した。DNA損傷の有無など調べるという。牛の首に小型線量計のガラス バッジも装着した。

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