Listening:<記者の目>福島第1原発 周辺の労働環境=関谷俊介(東京社会部)via 毎日新聞

東京電力福島第1原発周辺では廃炉以外の作業でも多くの労働者が働いている。除染をはじめ復興工事、防犯やゲート管理のための警備、今後は汚染土を 保管する中間貯蔵施設の関連作業も本格化する。特に20キロ圏では、原発敷地内の放射線管理区域と同程度の空間放射線量の中で作業することもある。国は新 たにルールを作って事業者に被ばく管理をさせようとしているが、その内容は複雑で、経験がない業者が理解するにはハードルが高い。ルール策定や行政指導に とどまらず、国は作業員の被ばく管理に一定の責任を負う役割を果たすべきではないか。

「2012年4月に福島県大熊町で牛の処分に携わったが、線量を測っていないので、どれくらい被ばくしたかわからない」。2年前、同県いわき市の 仮設住宅で60代の男性から聞いた言葉だ。町は当時全域が立ち入り禁止の警戒区域だったが、その後も草刈り作業などで入域したという。私はそれ以降、福島 に足を運ぶたび原発周辺での被ばく労働に目を向けるようになった。

11〜12年に約3カ月行われた初期の除染でも、この間の作業員の被ばくは最大11・6ミリシーベルト。がんで死亡する人が増えるとされる生涯の 累積線量100ミリシーベルトを短期間で超える可能性は低い。ただ、厚生労働省の基準では、年5ミリシーベルト以上の場合、被ばく労働後の白血病発症を労 災と認定する要件を満たす。そもそも除染などに従事する前に原発での作業に従事して被ばくしている人も多い。

 ◇散逸しかねない個人の線量記録

労働者の被ばく管理は雇用主に責任があり、被ばく線量の記録を30年間保存することが義務付けられている。だが中小の下請けも多いうえ、除染や復 興事業には永続性がなく、記録が散逸しかねない。労働者自身が生涯の被ばく線量を把握するためには、業種や雇用主が変わっても個人の線量を一元的に管理で きる仕組みが必要になる。

(略)

一方で、原発事故前には想定されていなかった新たな被ばく労働に対する国の対応は後手に回ってきた。

除染について原発と同じ被ばくの上限値を定めるなどした除染電離則が施行されたのは12年1月。さらに、放射線管理区域と同等の空間放射線量 (2.5マイクロシーベルト毎時超)での除染以外の業務を「特定線量下業務」とし、同様の上限値を適用するよう除染電離則が改正されたのは同7月になって からだった。大熊町で牛を処分した男性の場合、そもそも作業の時点で法的な規定が存在していなかった。また、こうした人たちの被ばく線量の一元管理システ ムは、ゼネコンなどが13年11月にようやくスタートさせた。

 ◇事業者任せで、ずさんな測定

そのうえ、一元管理システムはあくまで民間のルールにすぎず、法的拘束力はない。現場の放射線管理は今もずさんなままだ。除染作業員の男性は「健 康診断書を偽造されたり、実際には測っていない被ばく線量の値を書かされたりした」と打ち明ける。ある除染下請け業者は「ルールが厳しくなったので、書類 は必ずそろえるようにしている。でも形だけでより巧妙になっている」と話す。これでは作業の現況は改善されず、さらに、再び原発事故が起きた場合の労働者 の被ばくへの備えが万全と言えるはずもない。

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