核問題の専門家、マキジャニ博士に聞く(前篇)
フクシマ関連のアメリカ取材の報告を続ける。今回は首都ワシントンにある核問題(原子力発電所、核兵器、放射 性廃棄物など)のシンクタンク“Institute for Environment and Energy Research”(環境とエネルギー調査研究所=IEER)代表のアージャン・マキジャニ博士のインタビューをお届けする 。
マキジアニ博士は、インド・ボンベイの出身。1972年にカルフォルニア州立大学バークレー校で核融合に関する研究で博士号を取った後、キャピトル大学准教授などを経て1987年から現職にある。
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──福島第一原発事故をどう見ておられますか。アメリカでのスリーマイル島(TMI)原発事故との違いは何でしょうか。
アージャン・マキジャニ博士(以下、敬称略) TMIとフクシマはまったく別のケースとして考えた方が良いで しょう。TMIは放出された放射性物質のほとんどがキセノン、クリプトンなど希ガスでした。ヨウ素131の放出もありましたが、少量でした。キセノンやク リプトンの放出量は大量でしたが、直接的な人体の健康へ影響は、ヨウ素やセシウム、ストロンチウムと比較すると小さいのです。人体に到達する前に大気に霧 散してしまうのと、入っても体内にとどまらず、排出されてしまうからです。そんなわけで、TMI事故では、放射性物質の放出も、個人の被曝量も非常に小さ かった。だから地表の除染も必要なかったのです。フクシマでは、非常に高濃度に汚染された地域があります。自然放射線量の数十倍、数百倍の濃度の汚染が検 出された学校すらあります。TMIではこんなことはなかった。
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経済的な被害はチェルノブイリより大きい
──日本ではフクシマの被害はチェルノブイリに近いのではないかという意見もあります。
マキジャニ 汚染という点ではTMIよりずっとチェルノブイリに近いと思います。その点ではTMIとは比較にな りません。しかし、チェルノブイリよりひどい面もある。チェルノブイリでは汚染地帯は放棄され、その後は農業や漁業には使われていません。しかし日本は土 地が豊富ではない。土地が汚染で破壊されてしまうと、問題が非常に大きくなる。また、太平洋が汚染されたため、人々は魚類の汚染を恐れている。その結果、 漁業が破壊された。消費者の買い物の行動パターンが変わった。放射能汚染は客観的なデータの問題としてだけでなく、人々の主観の問題になったのです。こう したまったく別種の損害をもたらした点でも、フクシマはTMIとは違います。
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マキジャニ 他にも、単なる数字の比較だけでは分からない違いもあります。まず1点目。フクシマの1号機では、 燃料棒が溶けて、圧力容器や格納容器を破壊しただけでなく、コンクリートの基礎部分も突き抜けている可能性すらある。完全なメルトスルーです。また、今は 汚染水が地下水に混入し、ストロンチウム90の汚染が起きています。ストロンチウム90はセシウムよりはるかに危険です。より長く体内に残留し、異常を起 こすからです。
──2点目は何でしょうか。
マキジャニ フクシマの事故は3年経ってもまだ進行が終わっていません。チェルノブイリでは、放射性物質の環境 への放出は数週間で止まっています。止まってから除染の問題が始まった。そして現場は実際には放射性廃棄物捨て場になった。廃棄物をどうするかという問題 はそこから始まった。
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私が専門家として証言をして関わった訴訟の例を挙げましょう。1985年、オハイオ州にあった核弾頭のウラン材料工場の近隣住民が健康被害の賠償を求め て訴訟を起こした。89年に連邦政府が7800万ドルを支払うことで和解が成立しました。このケースでも、公衆の被曝量はフクシマよりずっと低かったので す。