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『反射鏡:「神話」に支えられた「現実主義」のワナ=論説委員・岸本正人』 via 毎日jp

 原子核を中心にして四つの電子が太陽の周りを回る惑星のように描かれた「原子模型」を、「オリーブの枝」が左右から包み込む--原発など原子力の平和利用を促進し、軍事転用に目を光らせ、「核の番人」とも呼ばれる国際原子力機関(IAEA)の旗のデザインである。

 オリーブは平和の象徴だ。同じ図案の「オリーブの枝」は国連旗などにもある。が、IAEA旗のそれは、原子模型を「閉じ込める」ようにデザインされている、と映ってしまう。きっと、福島第1原発の事故で、核燃料棒を水で冷やしつつ「閉じ込め」、燃料棒に由来する放射性物質を「閉じ込める」重要性が繰り返し強調され、頭にこびりついているからに違いない。

 地震と津波による東日本大震災、二重の大難に原発事故が重なった。「人災」とも指摘される原発事故が政府の震災対応の足を引っ張り、「原発避難」を強いられた住民は、故郷に帰る希望を見いだしかねている。明日、「3・11」から1カ月となる。

 「閉じ込める」。これが放射能被害を回避する唯一の最終的な方法であることに、原発と安全の矛盾が凝縮されている。

 放射性物質そのものを人の手で無害にすることはできない。安全を確保するには、十分な距離をとる以外、放射性物質を「閉じ込める」しかない。

 原発を運転すれば放射性廃棄物が出る。低レベル放射性廃棄物はセメントなどで固め、埋設処分される。その土地が農地などに利用できるのは300年後という。高レベルの廃棄物はガラスと混ぜて固め、冷却のため数十年保管された後、300メートル以上深い地層に埋設される。

 セメントで、ガラスで、最後は地中深く、「閉じ込める」しか廃棄物の処分方法がないという事実は、原発が「最終的かつ完全にはコントロールできないエネルギー」を取り扱っていることを象徴している。

 「3・11」以前、日本の原発には「安全神話」があった。米国・スリーマイル島原発事故、旧ソ連・チェルノブイリ原発事故後も、日本の高い技術力が神話を支え続けた。そして、神話は、統御できないエネルギーを完全にコントロールできているかのような幻想を生んだ。

 政府の原子力安全委員会の班目(まだらめ)春樹委員長はかつて「(トラブルの可能性を)全部組み合わせていけば、モノ(原発など)なんて絶対つくれない。だからどっかで割り切るんです」と語ったことがある。驚くべき発言だが、原発の安全が神話に過ぎないことの吐露ではある。

 原発の危機をあぶり出すものは地震、津波だけではない。ヒューマンエラーも、テロもある。第二の福島第1原発はありえないと断言できる者は、いない。

 原発の安全をめぐる論争は不幸な歴史を持つ。政治的争点という色彩を濃く帯びたテーマとして扱われてきたからだ。

 日本の発電電力量全体に占める原子力発電の割合は、1970年代後半から90年代前半にかけて飛躍的に増えた。95年度に34%、2000年度は34・3%となった。09年度は29・3%を占める。原発の比重が増大するのに伴い、原発抜きの日本経済、国民生活は考えられなくなった。

 「3割の電力を失えば日本経済は立ち行かなくなる」「原発の電力なしで国民生活を維持できるのか」--これら、「反原発」を批判する「現実主義」の主張に反論するのは、誰しも容易でない。現状を肯定する現実主義が是とされ、反原発の主張はもちろん、原発の安全性を問題視する議論さえも「非現実的」と社会の片隅に追いやられた。

 「非現実的」な主張を唱える者に対しては、「左翼」「反体制」などのレッテル貼りも行われた。これが、原発の安全論争そのものを萎縮させてしまった面は、否定できない。

 こうして、現実主義が、実は神話に支えられているという根本的矛盾は、社会の大方から忘れ去られてしまった。安全について思考を停止したまま、「現実」に逃げ込んだ。そこに、ワナがあった。

 今、原発について多くを語ってこなかった知識人の間でも原発への懐疑が広がっている。

 加藤陽子・東京大教授は、毎日新聞のコラム「時代の風」(3月26日)で、大岡昇平が戦争と軍部の暴走を許容していた自分と、そのことへの「反省」を前提として文章を書き続ける考えを表明した言葉を引き、そこに「原発を『許容していた』私」を重ね合わせた。

 大岡にならった加藤氏の自戒を共有したい。原発を推進、容認してきた政治家とともに。

『反射鏡:「神話」に支えられた「現実主義」のワナ=論説委員・岸本正人』

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